無権代理人が相続により本人の地位を承継した場合は?
例えば,父親から何らの代理権も与えられていない子が勝手に本人である父親の土地を売却して,その後父親が亡くなったような場合を考えるとき,無権代理人が唯一の相続人である場合(単独相続)と、複数の相続人のうちの一人に過ぎない場合(共同相続)とでは責任の取り方に大きな違いが生じてきます。
単独相続の場合は,無権代理人は無権代理人の地位と相続により承継した本人の地位とを併有することになり,無権代理人は本人の地位を相続して本人の財産を相続取得していますので,契約の履行に応ずることが現実可能であるため,契約の履行を拒否することは信義則上許されないと考えられているため,無権代理人は相手方からの契約履行に応じなければならないとされています。しかし,相手方が民法第117条の3つの要件に該当しないときは,相手方からの契約の履行に応じる義務はないと考えられています。
無権代理人の相続が共同相続であった場合は、無権代理人は複数の相続人のうちの一人に過ぎないので,無権代理人以外の共同相続人は無権代理行為に関与しておらず,本人の地位を援用して無権代理行為による契約の効力が相続人に及ぶのを拒むことが出来ます。
ですから共同相続人全員で無権代理行為を追認する場合であるとか,遺産分割協議の結果,問題の不動産を無権代理人が取得したような場合を除けば,取引の相手方は共同相続人に対して契約の履行を請求することは困難といえます。