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売主と真実の所有者が異なっている場合に買主は保護される?条文の上をクリックすると根拠条文が見れます

 不動産の登記というシステムはその記載されている事項が真実に合致するものであることが理想ですが,不動産登記簿に記載されている権利関係は必ずしも実体,すなわち真実の権利関係と合致するとは限りません。登記簿に所有者として記載されている者が真実の所有者でないというケースをいくつかの具体例で見て,果たして買主が保護されるかという点を見てみると

1.偽造の場合

 不動産の真実の所有者でないのに所有者であるかのような外形を作りだし、買主をだまして売買を行った者がいる場合,真実の所有者は偽造の登記に何ら関与しているわけではないのでまったく責任を負うことはありません。そして買主はそのような偽りの登記を信頼して不動産を買受けたとしても何ら保護されません。不動産登記には公信力のないことの結果として当然そうなります。

 2.二重譲渡の場合

 登記簿上の所有者が売主として不動産を二重に譲渡し,先に不動産を買受けたという買主が後で買受けた者の前に現れて自己の所有権を主張してきても、その買主に所有権移転登記がなされていない以上,先に登記を備えた方が所有権取得を主張できることになります。(民法177条

 3.詐欺の場合

 登記簿上の所有者が,ある人間を騙したうえで不動産を自己名義にし,売主としてその不動産を第三者に売却したような場合,その第三者が,売主が詐欺によって取得した不動産であるという事実を知らない善意の第三者であった場合には、詐欺に会った前売主が自己の所有権を主張してきても,買主としての所有権を対抗できることになります(民法96条3項)。なお所有権を対抗するには登記は必要であるという考え方が有力であるため、買主である第三者は善意でかつ所有権移転登記を受けていてはじめて自己の所有権を主張できます。

4.強迫の場合

 登記簿上の所有者である売主が,実は前の所有者を強迫して現在の売主の名義にしているような場合,前所有者は詐欺の場合と違って自らには何の落ち度もないため,保護される要請が強く働き、強迫をして自己名義にした上での売主から不動産を買受けた第三者が強迫の事実を知っていようがいまいが,つまり第三者の善意・悪意に関係なく,前所有者が所有権を主張してきた場合には買主はそれに対して対抗できないことになります(民法96条1項)。

5.虚偽表示の場合

 真実の所有者と売主とが通謀して売買などの仮装行為を行い,不動産を売主名義に移すことを虚偽表示といいます。虚偽表示では真実の所有者と売主の間には何らの効力も生じませんが、その無効を善意で買受けた第三者に対しては対抗することは出来ません(民法94条)。

 即ち,真実の所有者は自己の所有権を善意の買主にには主張できないのです。なお,この場合の第三者は詐欺の場合と異なり,対抗要件としての登記は不要であるとされています。