地主が返還請求を忘れたら?
定期借地権、事業用借地権において契約期間が満了したにもかかわらず、地主が返還請求を忘れて、借地権者が使用を継続しているときに明渡しが不可能になるか、という問題については、通常の借地権の場合と借地借家法による定期借地権の場合とでは異なることになります。
通常の借地権の場合、契約期間が満了した後も借地権者が使用を続けるときは、借地権者による契約更新の請求があった場合と同様に、借地権設定者(地主)が遅滞なく異議を述べない限り同一の条件で契約更新(法定更新)したものとみなされることになります。
一方、定期借地権等の場合は、更新がないことが特徴となっていますので、期間満了時には、地主は借地人に対し建物の取壊しと土地明け渡しを求めることができます。問題は、それにもかかわらず、地主が期間満了時に借地人に対して明け渡しを求めるのを忘れて、地代を受け取りつづけてしまった場合、通常の借地権と同様に法定更新され、借地人に何等かの権利が発生してしまうのではないかということです。このことに対する答えとしては、定期借地権等においては借地契約関係は期間満了とともに終了し、借地権者の権利は消滅します。したがって、借地人は土地を使う法的根拠がまったくないという状態になるわけですから、使用権限のない占有いわゆる不法占拠ということになります。地主は、土地所有権に基づく物権的請求権としていつでも不法占拠者に対して土地上の建物等の収去と土地の明渡しを求めることが出来ます(一般に所有権に基づく物権的請求権は時効にかからないといわれています)。
ただし、借地人の土地使用が余り長期間に及ぶようになれば、地主と借地人との間で黙示の土地賃貸借契約が締結されたと解され、場合によっては借地人が借地権の時効取得をするということもありえます。