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主たる債務者の委託により保証した保証人は、主たる債務者に代わって弁済をしたり、その他自己の出捐によって債務を消滅させた場合、主債務者に対し求償することができます。しかし、保証人としてはつねに代位弁済をしたうえでなければ求償しえないとなると、その間の主債務者の資力の減少に対し有効な手立てがとれないことになります。そこで民法は、かかる求償債権の保全が必要と認められる一定の事由があれば、代位弁済をなす前でも、あらかじめ求償権を行使しうるとしています(民法460条)。これを「事前求償権」といいます。

この「事前求償権」の規定が「物上保証人」にも適用されるべきかどうかにつき争われたケースです。最高裁は、460条の事前求償の規定は物上保証人には適用されないと判示しました。

第460条〔受託保証人の事前求償権〕

保証人か主たる債務者の委託を受けて保証を為したるときは其保証人は左の場合に於て主たる債務者に対して予め求償権を行ふことを得一 主たる債務者か破産の宣告を受け且債権者か其財団の配当に加入せさるとき

二 債務か弁済期に在るとき但保証契約の後債権者か主たる債務者に許与したる期限は之を以て保証人に対抗することを得す

三 債務の弁済期か不確定にして且其最長期をも確定すること能はさる場合に於て保証契約の後10年を経過したるとき

 平成2年12月18日 最高裁第三小法廷 判決

 債務者の委託を受けてその者の債務を担保するため抵当権を設定した者(物上保証人)は、被担保債権の弁済期が到来したとしても、債務者に対してあらかじめ求償権を行使することはできないと解するのが相当である。

 けだし、抵当権については、民法372条の規定によつて同法351条の規定が準用されるので、物上保証人が右債務を弁済し、又は抵当権の実行により右債務が消滅した場合には、物上保証人は債務者に対して求償権を取得し、その求償の範囲については保証債務に関する規定が準用されることになるが、右規定が債務者に対してあらかじめ求償権を行使することを許容する根拠となるものではなく、他にこれを許容する根拠となる規定もないからである。

 なお、民法372条の規定によつて抵当権について準用される同法351条の規定は、物上保証人の出捐により被担保債権が消滅した場合の物上保証人と債務者との法律関係が保証人の弁済により主債務が消滅した場合の保証人と主債務者との法律関係に類似することを示すものであるということができる。

ところで、保証の委託とは、主債務者が債務の履行をしない場合に、受託者において右債務の履行をする責に任ずることを内容とする契約を受託者と債権者との間において締結することについて主債務者が受託者に委任することであるから、受託者が右委任に従つた保証をしたときには、受託者は自ら保証債務を負担することになり、保証債務の弁済は右委任に係る事務処理により生ずる負担であるということができる。

これに対して、物上保証の委託は、物権設定行為の委任にすぎず、債務負担行為の委任ではないから、受託者が右委任に従つて抵当権を設定したとしても、受託者は抵当不動産の価額の限度で責任を負担するものにすぎず、抵当不動産の売却代金による被担保償権の消滅の有無及びその範囲は、抵当不動産の売却代金の配当等によつて確定するものであるから、求債権の範囲はもちろんその存在すらあらかじめ確定することはできず、また、抵当不動産の売却代金の配当等による被担保債権の消滅又は受託者のする被担保債権の弁済をもつて委任事務の処理と解することもできないのである。

したがつて、物上保証人の出捐によつて債務が消滅した後の求償関係に類似性があるからといつて、右に説示した相違点を無視して、委託を受けた保証人の事前求償権に関する民法460条の規定を委託を受けた物上保証人に類推適用することはできないといわざるをえない。

弁護士中山知行