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「被相続人が相続開始の時に債務を有していた場合の遺留分の額は、被相続人が相続開始の時に有していた財産全体の価額にその贈与した財産の価額を加え、その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し、それに遺留分の割合を乗じ、複数の遺留分権利者がいる場合は更に遺留分権利者それぞれの法定相続持分の割合を乗じ、遺留分権利者がいわゆる特別受益財産を得ているときはその価額を控除して算定すべきものであり、遺留分の侵害額は、このようにして算定した遺留分の額から、遺留分権利者が相続によって得た財産がある場合はその額を控除し、同人が負担すべき相続債務がある場合はその額を加算して算定するものである。」・・・実務で実際に経験してみないと条文を読んでいるだけでは、理解するのはなかなか難しいと思います。

第1028条〔遺留分権利者とその遺留分〕

兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、左の額を受ける。

一 直系尊属のみが相続人であるときは、被相続人の財産の3分の1

二 その他の場合には、被相続人の財産の2分の1

第1029条〔遺留分算定の基礎となる財産〕

1 遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加え、その中から債務の全額を控除して、これを算定する。

2 条件附の権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選定した鑑定人の評価に従つて、その価格を定める。

最高裁判所第3小法廷 判決 平成8年11月26日

原審の確定した事実関係は、次のとおりである。

正久は、平成2年6月29日、すべての財産を上告人に包括して遺贈する旨遺言した。

正久は、平成2年7月7日死亡した。

同人の法定相続人は、妻である被上告人裕子並びに子である被上告人淑子、同恵子、上告人及び修平である。

正久は、相続開始の時において、第一審判決別紙物件目録の本件不動産の項の一ないし二九記載の不動産(以下「本件不動産一」などという。)及び同目録の売却済み不動産の項の(一)、(二)記載の不動産(以下「売却済み不動産(一)」などという。)を所有していた。

被上告人らは、上告人に対し、平成3年1月23日到達の書面をもって遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をした。

平成2年12月18日、本件不動産6ないし8につき、平成3年2月7日、本件不動産2、5及び28につき、それぞれ相続を登記原因として上告人に所有権移転登記がされ、また、同日、本件不動産29につき上告人を所有者とする所有権保存登記がされた。

上告人は、被上告人らから遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示を受けた後、同人らの承諾を得ずに、売却済み不動産(一)を3億2732万0400円で、同(二)を7237万5000円で、それぞれ第三者に売り渡し、その旨の所有権移転登記を経由した。

被上告人らの本件請求は、遺留分減殺請求により被上告人らが本件不動産1ないし29につき、本件の遺留分の割合である2分の1に各自の法定相続分のそれを乗じて得た割合の持分(被上告人裕子は4分の1、同淑子、同恵子は各16分の1の割合の持分)を取得したと主張して、本件不動産1ないし29につき右各持分の確認を求め、かつ、本件不動産2、5ないし8、28及び29につき、遺留分減殺を原因として、右各持分の割合による所有権一部移転登記手続を求めるものである。

なお、被上告人らからは、前記記載の不動産のほか普通預金債権、預託金債権等の相続財産が存在する旨の主張がされており、上告人からも、第一審判決別紙相続債務等目録記載の相続債務の存在等が主張されている。

原審は、前記事実関係の下において、次のとおり判示して、被上告人らの請求を認容した。

上告人は、遺留分減殺の意思表示を受けた後、遺産を構成する売却済み不動産(一)、(二)を第三者に合計3億9969万5400円で売却し、その旨の所有権移転登記を経由したことにより、遺留分減殺請求により被上告人らに帰属した右各不動産上の持分を喪失させたから、被上告人らは、上告人に対し、右持分の喪失による損害賠償請求権を有する。

被上告人らは、本訴において、右各損害賠償請求権と上告人が相続債務を弁済したことにより被上告人らに対して有する各求償権とを対当額で相殺する旨意思表示した。

上告人が弁済したとする相続債務の額に被上告人裕子は4分の1、同淑子、同恵子は各16分の1の割合を乗じて求償権の額を算定すると、その額が右各損害賠償請求権の額を超えないことは明らかであるから、右求償権は相殺により消滅したというべきである。

そうすると、上告人主張の相続債務は、遺留分額を算定する上でこれを無視することができ、したがって、負担すべき相続債務の有無、範囲並びに相続財産の範囲及びその相続開始時の価額を確定するまでもなく、被上告人らは、遺留分減殺請求権の行使により、本件不動産1ないし29につき、本件の遺留分の割合である2分の1に各自の法定相続分のそれを乗じて得た割合の持分を取得したというべきである。

しかしながら、原審の右判断は是認することができない。

その理由は、次のとおりである。

遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合、遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し、受遺者が取得した権利は遺留分を侵害する限度で当然に遺留分権利者に帰属するところ、遺言者の財産全部の包括遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しないものであって、前記事実関係の下では、被上告人らは、上告人に対し、遺留分減殺請求権の行使により帰属した持分の確認及び右持分に基づき所有権一部移転登記手続を求めることができる。

被相続人が相続開始の時に債務を有していた場合の遺留分の額は、民法1029条、1030条1044条に従って、被相続人が相続開始の時に有していた財産全体の価額にその贈与した財産の価額を加え、その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し、それに同法1028条所定の遺留分の割合を乗じ、複数の遺留分権利者がいる場合は更に遺留分権利者それぞれの法定相続持分の割合を乗じ、遺留分権利者がいわゆる特別受益財産を得ているときはその価額を控除して算定すべきものであり、遺留分の侵害額は、このようにして算定した遺留分の額から、遺留分権利者が相続によって得た財産がある場合はその額を控除し、同人が負担すべき相続債務がある場合はその額を加算して算定するものである。

被上告人らは、遺留分減殺請求権を行使したことにより、本件不動産1ないし29につき、右の方法により算定された遺留分の侵害額を減殺の対象である正久の全相続財産の相続開始時の価額の総和で除して得た割合の持分を当然に取得したものである。

この遺留分算定の方法は、相続開始後に上告人が相続債務を単独で弁済し、これを消滅させたとしても、また、これにより上告人が被上告人らに対して有するに至った求償権と被上告人らが上告人に対して有する損害賠償請求権とを相殺した結果、右求償権が全部消滅したとしても、変わるものではない。

そうすると、本件では相続債務は遺留分額を算定する上で無視することができるとし、負担すべき相続債務の有無、範囲並びに相続財産の範囲及びその相続開始時の価額を確定することなく、被上告人らは本件各不動産につき本件の遺留分の割合である2分の1に各自の法定相続分のそれを乗じて得た割合の持分を取得したとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。

弁護士中山知行