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物権変動があった事実を知っていて,その物権変動についての登記の欠缺を主張することが信義に反すると認められる者は,登記の欠缺を主張する正当な利益を有しないため,民法177条にいう第三者にあたらない。そして、このような「背信的悪意者」に対しては,登記がなくても対抗できるというのが、確定した最高裁の判例ですが、本件は、抵当権の放棄についても同様である旨述べたものです。要旨「実体上物権変動があつた事実を知りながら当該不動産について利害関係を持つに至つた者について、右物権変動についての登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情がある場合には、かかる背信的悪意者は登記の欠缺を主張するについて正当な利益

を有しないものであつて、民法177条にいう「第三者」にあたらないものと解すべきである。」

第177条〔不動産物権の対抗要件〕

不動産に関する物権の得喪及ひ変更は登記法の定むる所に従ひ其登記を為すに非されは之を以て第三者に対抗することを得す

最高裁判所第1小法廷 判決 昭和44年1月16日

原判決(およびその引用する第一審判決。以下同じ。)は、根抵当権者たる訴外江商株式会仕が根抵当権設定者訴外市田染織工業株式会社の代表取締役市田道太郎および債務者訴外日本柔道衣生産販売協同組合の代表理事たる被上告人に対して根底当権を放棄する意思表示をしたが、当時すでに本件建物は訴外市田染織工業株式会仕から上告人に売り渡されその旨の登記がされていたという事実を認定したうえ、抵当権の放棄は目的物の所有者に対する意思表示によつてされることを要し、右の根底当権の放棄は、本件建物については、当時所有者でなかつた者に対してされたものであるから、その効力を生じなかつたものであると判断した。

しかし、記録に徴するに、上告人は、原審の最終口頭弁論期日において、上告人が訴外江商株式会社との間で根底当権設定契約解除の交渉をすることを訴外市田道太郎に依頼し、同人は上告人を代理して訴外江商株式会社から右放棄の意思表示を受領したものであるとの事実を主張したことが認められる。

そして、右上告人主張事実が認められるときには、右放棄の意思表示は当時の目的物所有者に対してされたものということができ、したがつて本件根底当権は有効に放棄されたものと解されるのにかかわらず、原判決は右の主張について何ら判断を示していない。

実体上物権変動があつた事実を知りながら当該不動産について利害関係を持つに至つた者について、右物権変動についての登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情がある場合には、かかる背信的悪意者は登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有しないものであつて、民法177条にいう「第三者」にあたらないものと解すべきところ、原審の認定したところによれば、被上告人は、本件根底当権の被担保債権の債務者の代表者であり、訴外市田道太郎とともに訴外江商株式会社と交渉して根底当権放棄の意思表示を事実上受けたものであるというのであるから、もし上告人の前示主張のとおり、訴外市田道太郎が上告人を代理していたものであつて、上告人に対して有効に放棄がされたものと認められるに至つた場合には、被上告人は根抵当権が右放棄により消滅した事実を知りながらこれを譲り受けたものと推測されるのであり、そして、被上告人に右のような悪意が認められたならば、譲受けの動機、経緯等において特段の事情がないかぎり、右認定のような立場にある被上告人が登記のないことを理由に根底当権の消滅を否定し、譲受けにかかる根底当権の存在を主張することは信義に反するところというべきであつて、被上告人は、根抵当権の消滅についての登記の欠缺を主張する正当の利益を有せず、前記「第三者」にあたらないものと解するのが相当である。

弁護士中山知行