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嫡出推定を受ける嫡出子は、「嫡出否認の訴え」によらなければ否認できません。親子関係不存在確認の訴えは、不適法で却下されます。

要旨「夫婦が子の出生する9箇月余り前に別居し,夫婦間にはその以前から性交渉がなかったが,夫は,別居開始から子の出生までの間に,妻と性交渉の機会を有したほか,妻となお婚姻関係にあることに基づいて婚姻費用の分担金や出産費用の支払に応ずる調停を成立させたなど判示の事実関係の下においては,嫡出否認の訴えによらずに夫が提起した親子関係不存在確認の訴えは,不適法であり却下すべきである」

第772条〔嫡出の推定〕

1 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。

2 婚姻成立の日から200日後又は婚姻の解消若しくは取消の日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

第774条〔嫡出の否認〕

第772条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる。

第775条〔嫡出否認の訴え〕

前条の否認権は、子又は親権を行う母に対する訴によつてこれを行う。親権を行う母がないときは、家庭裁判所は、特別代理人を選任しなければならない。

最高裁判所第2小法廷 判決 平成10年8月31日

上告人は、昭和62年11月18日、Hとの婚姻の届出をし、同人と同居した。その後、両名は不和となって、昭和63年2月ころ以降は性交渉もない状態となり、同年10月12日、別居するに至った。

もっとも、両名の間には、同年11月22日、性交渉があった。上告人は、昭和63年12月20日ころ、Hから妊娠したことを知された。Hは、平成元年1月27日、横浜家庭裁判所に対し、上告人を相手方として夫婦関係調整の調停を申し立て、同年6月22日、同事件において、上告人とHとは当分の間別居し、上告人は、Hに対し、同年9月から婚姻費用の分担金として毎月7万円を支払うほか、出産費用として同年7月末日限り10万円を支払う旨の調停が成立した。

Hは、平成元年7月27日、被上告人を出産し、上告人は、その直後ころ、右事実を知った。上告人は、平成元年11月21日、横浜家庭裁判所川崎支部に対し、被上告人を相手方として嫡出否認の調停を申し立てた。

同調停事件は、平成2年10月15日、合意が成立する見込みはなく調停が成立しないものとして終了した。

上告人は、家事審判法26条2項の期間を経過した後の平成2年11月15日、横浜地方裁判所川崎支部に対し、被上告人を被告として嫡出否認の訴えを提起したが、平成3年1月25曰ころ、右訴えを取り下げた。

上告人は、平成3年11月6日、横浜家庭裁判所川崎支部に対し、被上告人を相手方として親子関係不存在確認の調停を申し立てた。

同調停事件は、平成4年2月12日、合意が成立する見込みはなく調停が成立しないものとして終了した。

上告人は、平成4年2月26日、本件訴えを提起した。本許訴えにおいては、当初、HがBと不貞を犯したことを原因として右両名に対し慰謝料の支払を求める請求も併合されていたが、原審において、右請求に係る弁論は分離され、平成7年1月30日、右請求につき、被上告人は上告人の子ではなく、Hには不貞行為があったものと認められるが、Bが被上告人の父であるとは認め難いとして、上告人のHに対する請求を一部認容し、その余の請求を棄却する判決が言い渡された。

上告人は、平成9年8月11日、被上告人の親権者をHと定めて、同人と協議離婚した。

上告人は上告人とHとの婚姻が成立した日から200日を経過した後にHが出産した子であるところ、右事実関係によれば、上告人は、被上告人の出生する9箇月余り前にHと別居し、その以前から同人との間には性交渉がなかったものの、別居後被上告人の出生までの間に、Hと性交渉の機会を有したほか、同人となお婚姻関係にあることに基づいて婚姻費用の分担金や出産費用の支払に応ずる調停を成立させたというものであって、上告人とHとの間に婚姻の実態が存しないことが明らかであったとまではいい難いから、被上告人は実質的に「推定を受けない嫡出子」に当たるとはいえないし、他に本件訴えの適法性を肯定すべき事情も認められない。

してみると、本件訴えを却下すべきものとした原審の判断は、結論において是認することができる。

弁護士中山知行