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商人がその営業の範囲内で他人のためにある行為をしたときは、報酬を支払うという約束がなくても、相当額の報酬を請求できます。宅地建物取引業を営む者は商人です。宅建業者が、不動産の売買契約を成立させるため、買主を現場に案内し、契約の締結に立ち会い、売買代金額について売主、買主の両者の言い分を調整して、両者をして買主の希望価額以下に合意させ、目的物の受渡、代金の授受に関与した場合には、買主との間に明示の売買の媒介契約がされなかつたとしても、黙示の媒介契約がされたものと解することができ、宅建業者=商人は、商法第512条により、買主に対し、不動産売買の媒介の報酬を請求することができます。また、買主から不動産売買の媒介の依頼を受けた仲介人が数人あるときは、各仲介人は、特段の事情のないかぎり、売買の媒介に尽力した度合に応じて、報酬額を按分して、買主に対し請求することができます。

商法第512条〔報酬請求権〕

商人か其営業の範囲内に於て他人の為めに或行為を為したるときは相当の報酬を請求することを得

最高裁判所第3小法廷 判決 昭和43年4月2日

被上告人は宅地建物取引業を営む商人であるが、上告人(買主)と清兵衛(売主)との間に本件不動産について売買契約を成立させるため、上告人を現場に案内し、売買代金額については、売主側金2500万円、買主側金2000万円以下の言い分を調整して、結局金1700万円と合意させ、売買契約に立ち会い、売買契約書には被上告人の用意した用紙を使わせ、被上告人が媒介者として記名捺印し、売買不動産の受渡し、代金の授受、登記申請書類のとり揃えは、被上告人の関与の下に行なわれ、その仲介の労も主として上告人の側に立つて、その利益のためにされたものであり、このことを上告人は取引交渉の経過中に知ることができたものであることは、原審が適法に認定したところであり、売買契約は昭和33年11月3日にされ、その履行が同年12月15日完了したことは、当事者間に争いない事実として、原審の確定したところである。

そうとすれば、被上告人と上告人との間には本件不動産売買について明示の媒介契約はされなかつたが、報酬額について定めのない黙示の媒介契約がおそくとも売買成立のときまでにされたと解すべきである。

ところで、商法512条は、商人がその営業の範囲内の行為をすることを委託されて、その行為をした場合において、その委託契約に報酬についての定めがないときは、商人は委託者に対し相当の報酬を請求できるという趣旨に解すベきであるから、前記説示に照らし、被上告人は、上告人に対し、本件不動産売買の媒介のための報酬を請求できるといわなければならない。

したがつて、原判決は結論において相当であり、所論の違法はない。

買主から依頼を受けた仲介人が数人ある場合には、各自は特約等特段の事情のないかぎり、売買の媒介に尽力した度合に応じて、報酬額を按分して請求できるものと解するを相当とするところ、原審は、この基準により、被上告人の上告人に対する本件不動産売買の媒介報酬額を金25万円と認定したものであり、この認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できる。

原判決には所論の違法はない。

弁護士中山知行