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定期借地権は平成4年8月から施行されましたが、法として整備されたとはいえ、実務的にはいろいろな問題に直面することが予想されます。下記に掲げるのは定期借地権等に関する問題をさまさ゛まな角度から捉えたうえでの、今後予想されることを忌憚なく議論していくことが極めて重要であるものと思います。内容的にはかなりの専門知識を持っていないと理解できない部分もあろうかと思いますが、突っ込んだ議論は実務家の方たちにも大変役に立つことと思います。

都市的土地利用研究会 学術講演会(第3回)

シンポジウム:借地・借家法改正問題に関する研究集会V

−定期借地権に関する諸問題−

日 時 1990年4月28日

場 所 明治大学・大学会館

報告者 稲本洋之助       東京大学

    丸山英気        千葉大学

    本田純一        成城大学

    武田公夫        不動産鑑定士

    瀬川信久        北海道大学

    高畠秀夫        不動産鑑定士

    澤野順彦        弁護士・不動産鑑定士

    藤井俊二        山梨学院大学

    東川始比古       日本不動産研究所

    山野目章夫       亜細亜大学

    山本豊         上智大学

    五島京子        早稲田大学大学院

    上原由起夫       国士舘大学

    石川信         文教大学

司会  林道三郎        不動産経営研究所

    吉田克己        北海道大学

    佐藤一雄        三井不動産

司会(林) ただいまから「借地・借家法改正問題に関する研究果会」を開催いたします。

  今までこのような研究集会を三度行いました。第一回は一九八六年四月で「借地・借

 家法改正に関する問題点」(法務省長事局参事官室)について討議を行いました。第二

 回は昨年四月に開催し、「借地法借家法改正要綱試案」を中心として討論をいたしまし

 た。本日の第三回研究集会では、定期借地権について検討を行うことといたします。

  本日は、専門を異にする多くの方がたに報告をお願いしております。「都市的土地利

 用研究会」において、本掲題に関して研究を担当してきた者が分担して報告をいたしま

 すが、なにぶん時間の制限がありますので、特に重要な問題について、お話をさせてい

 ただくにとどめます。

  それでははじめに、「都市的土地利用研究会」を代表して東京大学社会科学研究所教

 技、稻本洋之助氏にごあいさつと、本掲題に関する序論を述べてもらいます。

序論:稻本洋之助(東京大学)

 「都市的土地利用研究会」という任意の研究団体を代表して、一言ごあいさつを申し上

げます。私たちは、昨年四月に、会場も同じく明治大学において第二回の研究集会を開催

いたしました。予想を大きく上回って非常に多くの人びとに集まっていただき、私たちは

大変嬉しく思いました。今回はその経験を生かして、専門的な立場からこの問題に関心を

お持ちの方に限定してご案内をさしあげました。一○○人を超えないようにという心づも

りでしたが、私たちのほうの人数もかなりの数になりますので、一五○人ほどの会合にな

ろうかと思います。対して、「総論」のはうでは、ときには具体的な制度の組み立て方か

らも離れて広い視野から批判や予測などをしようと考え、それを三つの分野に分けること

にしました。

 第一は「法律論」です。今までのわが国の法律制度との関係でどのように位置づけられ

るべきか。また他の土地利用方式との関係でどう位置づけられるべきか。諸外国との比較

においてどう位置づけられるべきか。これが「法律論」に含まれる三つのことがらです。 次に「市場給」と銘打ちましたが、誤解がないようにお願いをしたいと思います。これ

は、土地利用の市場において定期借地権はどのような役割を果たすだろうか。このような

制度が作られた場合、それはどのように利用されるのであろうか。また仮にこれが利用さ

れるとなれは、その影響は他の類型の借地権にどう及ぶだろうか。このようなことを言う

には大変な勇気を持たなくてはならないと思います。今日はそういうことに配慮して、参

加者の範囲を限定させていただきました。専門的な知識、知見をお持ちの方に限ってご案

内をさしあげたというのは、そういうことです。

 第三は「評価論」です。これは定期借地権自体が、経済的にどのような価値を持つか。

また定期借地における地代は、どのような水準に落ち着くのであろうか。このような議論

をすでに始めております。「都市的土地利用研究会」のメンバーのうちでも、専門や職業

経験に照らして適材この論点に配置したつもりであります。

 以上をもちまして、「序論」といたします。

司会(吉田)最初は千葉大学の丸山英気氏に、「定期借地権の位置づけ」とりわけ借地制

  度の発展のなかでの定期借地権の位置づけという点についてご報告をいただきます。

定期借地権の位置づけ:丸山英気(千葉大学)

 現在の借地制度は、超高齢化社会に入っているのではないかと考えています。と申しま

すのは、少なくとも都会地では子供が少ないので、構成員は老人と壮年者だけになってし

まっているからです。

 ところで、定期借地権という新しい制皮が生まれんとしていますが、この新生児は果た

して借地制度の嫡出子なのか、あるいは人工受精子なのか、ほたまたまったく異なる種族

なのかということが問題になろうかと思います。定期借地権は存続期間の満了後、更新し

ないという制度です。そしてその場合に、建物買取請求権も排除するということです。し

かも、定期借地上の建物の借家人も、借地権の終了後は原則的に退去しなければいけない

ことを制度の根幹としています。ここでは主として正当事由、建物買取請求権、あるいは

借地上の建物借家人の保護といった問題に焦点を当てながら、従来の借地制皮をながめて

みたいと思います。

 周知のように、民法典は他人の土地において工作物などを所有するために、一方では物

権としての地上権と、他方で債権としての賃借権を用意しました。しかし、民法制定後、

この権利は地上権に関する法律を除いて、ほとんどは賃借権によって行われたこともすで

に常識となっています。ところが賃借権の場合には対抗力が当然にないとか、存続期間に

ついて保障が欠けている、あるいは譲渡、転貸などについて制約が大きい、など問題が多

いわけです。

 そこでこの点から、賃借権においては二つの方向からの修正が始まります。一つは、投

下資本の回収の方法をより保障していくという方向です。財産権としての純化ということ

かと思います。まず対抗力は、明治四二年の建物保護法によって、建物の登記をもって賃

借権(地上権)登記の代行手段とするという制度が認められました。また譲渡・転貸につ

いては、大正一○年の借地法の制定によって、建物など、権原によって土地に附属せしめ

た物とともに土地賃借権を譲渡、転貸しようとする場合、土地所有者に、建物買取請求権

を選ぶか、あるいは承諾するかを選択させるようなシステムを作ったわけです。つまり間

接的に譲渡性を強制しようということでした。また、財産権としての純化をはかるという

この制度のなかに賃料の増減請求権を入れることも可能だと思います。

 二つは、賃借人自体の居住の保護のための修正です。借地人が自分で所有する建物に自

分で居住する場合には、居住自体の保護の方向が要請されることになるからです。つまり、

居住権の保護という方向です。大正一○年の借地法ては、存続期問をある程度長期化する

と同時に、更新を容易化いたしました。さらに昭和一六年の借地法の改正で、更新拒絶に

ついて自己使用その他正当事由を必要とするという条項が入れられました。この条項は戦

争の激化時あるいは敗戦後の絶対的住宅難に対応するため、利益比較の原則というかたち

で運用されるようになってきました。この条項は、本来、地代、家賃統制とともに統制法

として制定されたとの経緯から、住宅難の解消の政策立法として位置づけられるものです

が、しかしながら以後この原則は借地法の一方の柱として定着してまいります。

 昭和三○年代、我妻教授をリーダーにして着手された借地・借家法の改正事業は、もは

や異常時ではないという前提の下に、借地・借家の正常化を図ったわけです。一方では士

地所有者の側から、戦後復興の応急的機能を果たした正当事宙を明確化することを、さら

に高度利用を正当事由のなかに入れることが強く主張されました。他方で、借地人の側か

ら財産権としての純化、譲渡、転貸の自由、担保化の要求などが出てまいりました。しか

しこれは、両方の意見が一致しないで流れてしまいました。この際、不動産制度に大いに

影響のある在野法曹、あるいは金融界の不一致が立法阻止を促進したと指摘されているこ

とに注意すべきでしょう。

 昭和四一年に、現実主義的な立場から、最小限必要とされる事項について立法がなされ

ました。賃借権の譲渡の際の土地所有者の承諾に代わる許可などです。これは、借地人の

側からも土地所有者の側からも十分満足のいくものではありませんでした。

 ところで借地は、昭和四○年ぐらいから、新たに出なくなってまいりました。いったん

貸したら返ってこないという運用の仕方が、土地所有者に借地権の設定を躊躇させたから

です。

 そのころ新しい土地供給制度、例えば新借地、土地信託、あるいは等価交換、事業受託

などが出できて、それに対応して借地制度を新たに作っていかなければいけないという機

運が起こってまいりました。これが定期借地権発想の端緒ということができると思います。

 注意していただきたいのは、新たな土地供給制度を推進したのは土地所有者や借地人で

はなくデベロッパーだったということです。

 では定期借地権は、デべロッパーの要求を満たすか。デべロッパーにとっては正当事由

を緩和する、あるいは期間終了の調整を明確化するというところが改正の目標てした。ま

たデベロッパーは、一方ではビル経営なり借家経営のために、土地に対する権利を取得す

ることもあり得ます。そういった場合に、その権利がどの要請を満たすかというかたちで

問題になっていようかと思います。定期借地権が土地所有者によって供給されるかという

視点とともに、この視点を入れて定期借地権を評価することが必要だと思います。

 定期借地権は借地権の多様化というメニューから出てきたのですが、しかし今後は既存

の普通借地権が出ないことほはっきりしていますし、新しく創設された普通借地権も都会

地て出てこず、借地が出るとすれば定期借地権が選択されることになり、おそらく定期借

地権が借地制度の主流となっていくことと思います。

 どの程度出てくるか。これはあとでお話があると思いますが、私は少なくとも短期型と

か買取型はかなりの程度出てくるのではないかと思っています。この場合、定期借地椎者

は単純な居住者よりも、むしろ事業者というタイプのものが、権利者となることが予想さ

れます。そういたしますと、これらの定期借地権では財産権としての純化を図ることが必

要になってくるように思います。その点は、現在考えられている定期借地権は、例えば対

抗要件とか、譲渡・転貸、担保化などについて、必ずしも十分とは言えない。

 財産権としての建物買取請求権の問題については省略することにしまして、次に、借家

人の利益について触れておきたいと思います。これは徹底的に保護する必要があろうかと

思います。このことは、他人の権利が消滅することによって、自分の権利が消滅すること

はないという市民法の基本的な要請があることのみならず、借地権自体の保護というとこ

ろから要請されます。借家人に関しては、問題は山積していますが、簡単に二つだけ指摘

しておきます。それはかなりの数の借家人が定期借地上の建物の利用者となっており、借

家人を個別的に処理することが困難で何らかの具体的処理を必要とせざるをえないという

ことと、ここでいう借家人はいわゆる非定着的借家人であるということです。

 定期借地権が導入されても、既存の借地権が原則的に存在し続けていくことは言うまで

もありませんが、この場合、既存の借地権をどうするかがかなり問題になります。これを

考える際に、水本教授の言う借地権者の借地権の買上げなどという制度がかなり説得力を

持つのではないかと思っております。

司会(吉田)  続いて成城大学の本田純一氏から、土地信託との関係、とりわけ建物買

 取型定期借地権と土地信託との関係について報告いただきます。

土地信託等との比較:本田純一

 私のテーマは、定期借地権制度と他の開発方式との比較です。ここでは定期借地権のう

ち、建物買取型の定期借地権と土地信託との比較を中心に報告します。

 定期借地権は、期限がきたら終了するという新しいタイプの借地権ですし、そのなかで

建物買取型は建物買取請求権が認められているものです。一方、土地信託というのは、地

権者Aが実質的には自己の所有権を留保しながら、形式的には受託者てある信託銀行Bに

信託して、それを移転する。受託者はその上に建物を建てて、それを賃貸して賃料収入か

ら得られたものを信託配当というかたちて最初の地権者Aに支払う。これが土地信託です。

 しかも土地信託の場合には、信託期間が終了しても、受託者は上物つきでそれを当初の

地権者Aに返す。したがってエンドユーザーである借家人は、そのままそこに住んでいる

ことができる。その点では、建物買取型の定期借地権制度と共通性があります。従来は都

市の土地を開発する際に、デベロッパーがまるごと買い上げてビルを建てるという開発方

式が行われていました。ところが最近では、土地信託のようにいわば地権者を開発のなか

に組み入れ、参加させるかたちで共同で開発をする。こういう開発方式へ移ってきました。

まずその要因は何かを、考えてみたいと思います。

 第一には、やはり地価の高騰が大きな影響を及ぼしているのではないかと思われます。

昭和五八年ごろから都心の土地、とりわけ中心部の業務地域に異常な地価高騰が生じて、

地権者は都心の土地てあれはどこでも誰でも業務用地として開発が可能になりました。地

価の高騰に伴う固定資産税等の値上げに伴い、地権者は、土地を最大限に活用しなければ

いけない。しかも将来、その土地が値上がりした状態で戻ってくるというキャピタルゲイ

ンだけではなくて、インカムゲインも取得したい。また、それでなければ採算がとれない

という意識をもつに至ったのです。

 このことから、都心の住宅地の所有者や零細の営業主たちが、狭小な土地を手放さずに

業務用ビル用地へと転換することを望むようになりました。しかし、これらの人たちが、

必ずしもこのような開発方式を具体化するについて最善の方策を有していたわけではあり

ません。これが専門家をして開発を可能にするという開発方式、しがもそのなかに自分も

参加するものへと変わっていったのだと思われます。

 第二の要因は景気の好況です。昭和五八年ごろから円が急上昇して原料が安くなったこ

とに伴い、一般の企業がだぶついた資金を国内の不動産投資へと向けるようになりました。

 これらの企業は、これまでは保有している土地を銀行から融資を受ける際に抵当等担保

に供していたのですが、最近では無担保金融が発達して、必ずしもこれらを担保として生

かす必要がなくなりました。これを不動産投資というかたちで最大限に活用しようという

二−ズに変わっていったものと思われます。

 しかもその際、自分でその土地を開発するとそれに必要な人材やノウハウ等を自ら取得

しなければいけない。それには手間も費用もかかり、かえって企業イメージがマイナスに

なることもあります。したがって、一定の手数料を支払ってでもそれを専門家に委ねるほ

うが得策であると考えるようになったのです。ここにも、地権者参加型の開発方式への一

つの方向が見られます。

 つぎに、両者の比較に移ります。土地信託も定期借地権も、いずれも土地を買い取らな

い開発方式であるという点では共通性を持っています。理論的に見ても、いずれも都市的

な土地を、いわはその土地からの収益を拡大する、つまりその土地を有効に活用しようと

いう意図の下に作り出されたものです。その共通点としては、当該土地上に建築される建

物が、おそらく原則として事務所用等の営業用のビルだということです。居住用の建物が

建てられることも考えられますが、採算性を考えると高級マンション等に限定されてくる

のではないかと思います。

 次にマイナスの共通面ですが、いずれの方式も、鉛筆ビルの建設を防げないという意味

で良好な都市環境の創造には役立たないであろうと思います。土地信託については、はじ

めは良好な都市環境創造の機能があるのではないか、つまり点としての開発ではなくて面

としての開発が期待されたのですが、結局土地信託の場合でも、どうしても土地所有者が

自分の土地を財産として最大限に活用する側面が捨て切れないせいか、この手法を使思わ

れます。そういう共通点もありますが、両者の間には、基本的にはいろいろな違いがある

と思われます。まず第一に、土地信託の場合には事業遂行の連続性があると言えます。例

えは旧契約から新契約へと移動する際に、その終了時の紛争の回避です。

 土地信託の場合には、基本的にほもとの契約が、つまり受託者てある信託銀行とエンド

ユーザーである借家人との契約が信託期間終了後も当初の地権者に継続するという前提で

契約されていますので、地権者は家賃収入の一部を信託配当というかたちて受託者から受

け取ることによって、契約当初から借家経営を享受しているわけです。しかも信託終了時

には上物つきで返還を受け、受託者の事業を継承して、ひきつづきインカムゲインを得る

ということになります。

 したがって、例えば賃料についても管理会社にすベて委託しておりますので、建物の所

有者が信託銀行から地権者に代わっても、ひきつづき同一の管理会社がそれを管理するこ

とになると思われますから、終了時には賃料をめぐる紛争は基本的には起きないのではな

いかと思います。逆に定期借地権の場合はそうではないでしょう。

 第二は、一身同体性です。これは当初の契約の際の中身の問題ですが、土地信託の場合

には、信託された土地の上にいかなる建物を建てるか、あるいは終了後の建物をいかに保

守管理するかについて地権者の意向が尊重されますが、定期借地権の場合には、その土地

にどのような建物を建てるかは借地人の意思に任されるので、地権者の意向はそれに反映

されないわけです。とりわけ、受託者(信託銀行)には信託法上では、忠実義務、あるい

は善管注意義務という義務が課されています。この点からも、地権者の意向を無視した開

発行為をすることはできないのです。

 第三は安定性です。定期借地の場合にはどこでも誰でもできますから、悪質デベロッパ

ーの介入を阻止できないと思われます。つまり、定期借地の場合には、必ずしも地権者に

とっで利用の好適地だけが契約対象になるわけてはありません。かなりリスクが大きいの

です。これに対して土地信託の場合には、受託者には今述べたような一定の義務がありま

す。

 しかも、土地信託を受託するにあたっては、信託銀行は詳しい調査を行いますので、そ

の利用に最適な土地でないと、契約をしません。逆に言うと、地権者から見ればそれだけ

安全であるというわけです。

 その他、価値権性(受益権を証券化して投資の目的とすることも将来は可能となると思

われます)、多機能性(複数の地権者の土地を一括して開発するのに適していること、国・

公有地の開発にも適していること)という点も重要です。最後に、それでは定期借地にく

らべて土地信託のほうがすべての点で勝っているのでしょうか。基本的には土地信託のほ

うが有利な側面が多いと思いますが、両者を単純に対置するのではなく、両者を組み合わ

せることを考えるべきだと思います。

 たとえば、土地信託には処分型というものがありますが、これを活用する。地権者が自

分の所有地を信託して、信託銀行がそこに上物を建てそれを定期借地権つきて第三者に処

分する。こういうかたちをとると、地権者は土地所有権を失うことなく地代を収受するこ

とができることになります。ただ、そこでいう定期借地権は、おそらく私がここで問題と

してきた建物買取型ではなくて、長期型にならないと採算が合わないのではないかと考え

られます。そういう意味では、買取型の定期借地権とこのような手法がどこまで親しむか

は、現在のところまだはっきりしない。両者が親しむような方式を開発することが今後課

題ではないかと思われます。

司会(吉田) 続いて、不動産鑑定士の武田公夫氏から、「定期借地権の需要予測」に関

 するお話をいただきます。とりわけ集合住宅の敷地との適合性に重点をおいてお話をい

 ただきます。

「定期借地権の需要予測」武田公夫

 私の担当が「定期借地権の需要予測」ですが、その前提として、第一に、契約に際して

の一時金、いわゆる権利金がどのような額となるか。第二に賃貸料、地代がどういう数値

となるか。この二点が問題になります。

 ご承知のように定期借地権はまったく新しい権利ですが、権利金と地代がどのようにな

るかは、現実に法が施行された後、需要者と供給者の意思の合致で定まります。それに対

して現在どのように考えるかというと、予測がまったく困難とは言えません。類似の権利

から推計する。また、それに要件を加えて考えてみました。次のグラフ(図1 定期借地

権・経済的利益の推移)は元本の経済的利益をあらわしたもので、昨年の日本不動産学会

で報告した数値をもとにしています。

 結論を申し上げますと、一時金は期間の長短で違いますが、更地価格の五〜一○%程度

が当事者間での合理的な数値であろうと思われます。賃料は、類似している特別借地その

他からみて、いわゆる「相当の地代」−−これは相続税評価額の六%相当額が年額ですが

−−それを上限値として、その三分の一が下限、このへんの範囲であろうかということで

す。

 なお、のちほど「地代論」て高畠さんから、一時金に関しては現在の旧借地権を若干圧

縮した額、地代については現在の借地権とあまり変わらないというご意見もあります。

 次に適合性です。表一(表1 地域適合試算表)をご覧いただきたいと思います。これ

は定期借地権による持ち家の試算です。貸住宅の場合も経済性はまったくイコールですの

で、試算の原型として持ち家を選んでいます。定期借地権による住宅は期間の有限性から

、借家と持ち家の中間に位置するものと考えています。

分 地域区分

地価水準 a

月間負担額

ア イ ウ b

地域推定

家  賃 c(a/b)

選択計数

ア イ ウ d

適合判定

ア イ ウ

宅 1,000/u

800/u

600/u

400/u

200/u

100/u   576 376 226

  476 316 196

  376 256 166

  276 196 136

  176 136 106

  126 106  91 220

200

180

160

140

120   2.62 1.71 1.03

  2.38 1.58 0.98

  2.09 1.42 0.92

  1.73 1.23 0.85

  1.25 0.97 0.76

  1.05 0.88 0.75   D D B

  D D A

  D C A

  D C A

  C A A

  B A A

宅 1,000/u

800/u

600/u

400/u

200/u

100/u   285 232 192

  258 216 184

  232 200 176

  205 184 168

  179 168 160

  165 160 158 242

220

198

176

154

132   1.17 0.95 0.79

  1.17 0.98 0.83

  1.17 1.01 0.89

  1.16 1.05 0.95

  1.16 1.09 1.03

  1.25 1.21 1.20   B A A

  B A A

  B B A

  B B A

  B B B

  B B B

(注)

1 定期借地権を敷地とする住宅は、借家と持家の中間に属すると考えられる。個々では、借家の経済的負担との比較で適合性を判断したものである。選択係数1以下(同程度の住宅の家賃以下)をAとし、1.2以下をB、1.5以下をC、1.5超をDとした。

2 地価水準にとり6地域に分類している。一般住宅は、土地200u、建物80u(木造、建設費150千円/u)とし、集合(中高層)住宅は、建物は80u(建設費300千円/u)、敷地実効容積率150%とした。

  建物価格の20%と土地権利金は自己資金で調達する。

3 借入金は、公的資金(機関20年、利率5.5%)により元利均等償還(賦金率0.068788)により算定した。

  固定資産税は、建物価格に0.6及び0.017を乗じ、1/12して求めた。土地賃料は相当の地代を最高額アとし、その0.6をイ、0.3をウとした。

4 土地賃料(月額)と建物関係負担(借入元利月額と固定資産税等1/12)を合計し、毎月負担額を求めた。

  地域推定家賃は次の単価(集合住宅は1.1倍)を80uに乗じ算定、

  1000・・・2,750(円) 800・・・2,500 600・・・2,250 400・・・2,000 200・・・1,750 100・・・1,500

5 上記の計算に基づき、家計の住宅取得により経済的負担と地域賃料を比較し、その乖離(「1」三章)

  により判定した。

 この試算の組み立てについては、表一下の注をご覧いただきたいと思います。まず左側

に地域区分があります。地価水準が一平方メートルあたり一○○方円から一○万円という

地域をモデルに選んております。定期借地権を利月した、八・○平方メートルの住宅がど

のくらいの負担になるかが、一○○○円単位で算定してa欄で表示しています。b欄が、

各地域の推定家賃です。C欄の選択係数ですが、現在の借家の家賃と同じであれば、当然

持ち家ですから選ぶであろう。こういう数字であらわしております。それが一以下をAと

いう判定、二割くらいプラスではやはり定期借地植で持ち家を選ぶであろうというのでB

、一・五くらいまでがc、五割増し以上ですと、もはやこれは経済的負担から誰も選択し

ないだろうからDと判定しています。

 上欄が一般住宅、一戸建てです。これをご覧になりますとおわかりのように、ほとんど

Dです。特に賃料のアのケースは、地主が供給をするであろうと思われる相当の地代の場

合ですが、限界値である一平万メートル一○万円の地域でしか適合しない。こういう結果

になります。次に下欄の集合住宅の試算をご覧いただきたいと思います。これとガラッと

変わって、ほとんどがA、Bです。しかも地価水準の高い地域、一平方メートルー○○万

円、東京で言いますと吉祥寺から三鷹くらいのところかと思われますが、そのような地域

でも当てはまるということです。三大都市圏、特に東京のような高地価のところで、定期

借地権は集合住宅がなじむという結論になりました。この試算は一般借家の賃料との比較

からみての適合性でありますが、需要は無限といっても良いと考えられます。そうします

と実際問題としては、やはり現実の数値は供給で左右されることになろうかと思います。 定期借地権の構想が発表された昭和六○年二月に、政府予測では三○万戸という数値が

出ておりますが、これは一般住宅のケースです。

 結論として、定期借地権は、一般住宅では三大都市圏での普及は困雄であろう。むしろ

集合住宅、中高層のマンションで普及するのではないか。具体的な数値としては、やはり

一○年間で三○万戸程度という経済的要件が満たされればできるのではないかと思ってお

ります。

司会(吉田) ありがとうございました。続き北海道大学の瀬川信久氏から、同じく市場

 論ですが、更地、普通借地による住宅供給と比較しながら、定期借地が実際にどのよう

 に機能していくのがについてお話をいただきます。

定期借地権による宅地供給の具体像:瀬川信久

 定期借地権は、宅地の供給を増やすものと一般に考えられています。確かに供給者に有

利にすれば供給が増えると言えますが、具体的にどういう地域でどういう用途の借地が増

えるかを見ないで、ただ宅地の供給が増えるからいいというわけにはいきません。また、

定期借地権で出てきても、その分、普通借地権や更地による宅地供給が減るのであれは、

全体としてどうなるかを見る必要があります。そこで、現在、実際になされている新規の

借地設定の例をできるかぎり集て、要綱試案が立法された場合の宅地供給について、全体

的で、かつ具体的なイメージを作ってみました。

 まず、普通借地権ですが、定期借地権が立法されても、地方の中小都市の郊外では供給

され続けると思います。例えば、長野県の飯田市では、最近でもたくさんの新規借地が設

定されているとのことですが、それは、人口はあまり増えないで住宅地が拡大している地

方都市だからだと思います。こういうところでは、もと農家は、後継者難や減反政策など

の理由で農地を管理できなくなっている。しかし、先祖からの土地を手放したくない。そ

れから、地価がまだ低いので取れる地代に比べて固定資産税が小さい。で、貸地経営のメ

リットがあるので貸地に出す。そして、近い将来に土地利用の変化が考えられないので法

定更新があっても支障を感じていない。他方、この地域で借地人が土地を買わずに賃借す

るのは、地価上昇の期待が小さいので、土地購入のためのローンの金利と借地の地代とを

純粋に比較し、無理をして土地を購入しないからと思われます。こういう地域では、定期

借地権が創設されても、公正証書が煩わしいので普通借地権が設定され続けるのではない

かと思います。それでは定期借地権はどこで利用されるのか。まず短期型の定期借地です

が、これは借地人が法人で、かつ、事業用の建物に限定されていますので、要綱試案が考

えているように、大規模小売店、飲食店、遊技場などのために使われると思います。ただ

、これらについては、借地法の規制を逃れる

いろんな契約様式が開発されています。ですから、その脱法行為性を払拭する意味は持ち

ますが、この種の借地の供給が新たに増えるとはちょっと考えにくい。それから、この借

地権は、都心部のビルでも簡易な建築の場合には利用されると思います。買取型定期借地

権には最低期間が二○年とか終了時の建物買取義務があるので、それよりもこの短期型の

方を選択することがでてくると思います。

 次に、長期型と買取型の定期借地権ですが、これらは大体同じような場合に利用される

と思います。居住用と非居住用とを分け、居住用については一戸建と共同住宅とを分けて

みます。

 まず居住用の一戸建のための定期借地権ですが、千歳や新潟など発展している地方都市

の通勤圏や、札幌∵東京など大都市の通勤限界地などで供給されると思います。ただ、こ

の地域では現在でも、遅かれ早かれ売却の形で宅地が供給されています。というのは、取

れる地代には借地入の所得という上限があるのに、この地域では地値が相当上昇していて

固定資産税それに相続税の負担が大きい。土地管理の煩わしさをも考えると貸地経営のメ

リットは小さい。他方、住む方は、地価上昇の期待があるので相場地代を越えるローン金

利を負担しても土地を購入しようとするからです。定期借地権がつくられると、この地域

では一戸建の借地がかなり出ると思われますが、その大部分はこれまで更地で供給された

ものが借地に切り換わるだけですので、更地と借地を合わせた一戸建宅地の供給の総量は

それほど増加しないと思います。

 このように見てきますと、定期借地が利用されるのは共同住宅の場合になります。この

場合は、一戸建に比べて取れる地代が大きいので地主にとって貸地のメリットがあります

。他方で居住者の側では、所有地付の共同住宅と比べて負担が軽くなるので需要がでてき

ます。しかし少し細かく考えてみますと、賃貸アパートのようなものは、地主自身が建築

するので定期借地権は利用されません。これに対し、マンション、中高層住宅のように建

築資金・管理負担が大きいものは、しばしばデベロッパーが借地権を得て建築している。

それで定期借地権がつくられれば、現在躊躇している地主がマンションの敷地を提供する

と思われます。具体的には、都心に近い高級マンションから通勤限界地のマンションまで

多様なものが供給されると思います。ただ、分譲マンションの場合、借地方式だと、地主

は地代を集めたり税金を納めるなど煩雑なので、普通は、専用部分のいくつかを取得して

資産価値を確保し、土地は譲渡しています。ですから、定期借地が利用されるのは賃貸マ

ンションでしょう。このようにマンションで利用されると思いますが、マンション全体の

中で借地上マンションは多くありません。(昭和五三〜六○年の首都圏で年八○四〜二三

四○戸(平均一五八○戸)、マンション建築一戸数のうち一・八%〜四・五%(平均三・

一%))マンションについても敷地の供給の増加は著しく大きいものではないように思い

ます。定期借地権が最も考えられるのは、、賃貸型共同住宅の特殊形態である社宅です。

現在、企業は従業員の住居を確保するのに苦労していますが、そういう企業が相当な地代

を安定的に払い一定期間の後に土地が戻ってくるのであれは、都心に近いところでも、貸

地が出てくるでしょう。企業にとっても、社宅建築のための借入金の利息、建物の減価償

却、地代を経費にできるメリットがあります。

 非居住用はどうかといいますと、現在でも都に、三〇年から六〇年の借地権の上にオフ

ィスビルが建っています。この形態の借地は今後、定期借地権に流れていくだろうと思い

ます。

 以上、長期型と買取型をまとめて話しましたが、このように両方とも利用される可能性

があるときに実際にはどちらが利用されるのか、という問題があります。長期型と買取型

の違いは、@最低期間の長短と、A終了時の建物買取義務の有無、それから借家人を引受

ける義務の有無です。地主から見ると、@の点では買取型の方が短期で好ましい、しかし

Aの点では、建物買取、借家入引受けの義務がない長期型がよい。ところで、公団が借地

方式で「一般市街地住宅」を建てて、その後地主に譲渡した例がありますが、その大半は

後に建替えられて事業所や店舗になっているとのことです。この事実によりますと、Aの

点は、期間満了後の土地取戻しを困難にするとほ考えられません。ですから、買取型と長

期型の使い分けは、@の点で決まり、具体的には次のようになると思われます。地主が、

満了時に地上建物を取得しその後もそれまでと同じ建物の利用を考えている場合には、買

取型を選択する。これに対し、五〇年以内に高度利用への転換を予想をそるときには、期

間の短い買取型を選択し、高度利用への転換が五〇年より先になると予想するときにのみ

、Aの負担を避けるため長期型を選択することになる。このうち、高度利用への変更をど

の程度先のことと考えるかは、国民経済の発展や変化、その地域の利用状況の変化、借地

人が建てる建物の経済的な耐久性を地主がどう予測するかによりますが、経済成長が現在

のように続く限り、長期型が利用されるのは、経済的な耐久性の長い都心のオフィスビル

と、拡大の緩やかな地方都市の郊外の一戸建家屋に限られ、それ以外は買取型によるので

はないかと思います。それから、この買取型で建物が貸家であるときに、地主が建物を買

取った後に貸家を継続するか借家人を追い出して建替えるかは以上とは別の問題で、期間

満了時のその土地の高度利用の可能性によります。

 以上の検討から、さしあたり三つのことを指摘しておきたいと思います。第一に定期借

地権によって居住用の宅地が供給されますが、大都市の通勤圏では、まずマンション、特

に賃貸マンションと社宅であり、一戸建ての宅地供給が増えるのは、住宅問題が深刻でな

い地方都市に限られるだろうとおいことです。オフィスビルや事業用建物の敷地は定期借

地権によって現在よりも供給されるでしょう。第二に、定期借地権は結局、賃貸マンショ

ン・社宅のような賃貸型の住宅を増やすことになる。このことは、定期借地上の建物の借

家人の保護が大きな問題であることを意味します。第三に、定期借地権は、居住用よりも

むしろ事業用の建物のために利用され、しかも、より短期のものがより多く利用されるだ

ろうということです。変化の激しい地域では、比較的大規模の建物が二○〜三○年のサイ

クルで建築・取去される状態が予想される。こういう状態を都市計画上どう評価するかと

いう問題があります。定期借地はこのほかにもいろんな観点から検討する必要があります

が、この報告では、定期借地権による土地供給のあり方をできるだけ具体的に描くことに

よって、検討・評価する視点を具体的に提示してみました。

司会(吉田) 続いて、「評価論」に入ります。不動産鑑定士の高畠秀夫氏からご報告を

 いただきます。中心的には、現行の借地権と比較しながら、「定期借地権の設定対価と

 賃料」についてご報告いただきます。

定期借地権の時代:高畠秀夫(不動産鑑定士)

 私の報告は、いろいろ計算を行った結果の説明です。法律上の相当地代を論ずるつもり

はありません。それには前提条件が必要です。地代だけを取り上げてということではなく

て、定期借地権設定のときの対価の要素としての地代、具体的に言えは権利金との関係で

の地代を考えます。その権利金が、定期借地権と現在の借地権とではどう異なるかという

ことが、一つ問題であります。

 計算の出発点として、現在の借地権設定の対価と等価関係で考えていく。なぜ等価関係

を前提とするかというと、その理由の一つは、定期借地権でも現在の借地権の慣行をまっ

たく離れたかたちで対価の授受が行われることはないであろう。また、これから供給する

方としては、現在の借地権の設定対価との等価関係を相当下回るような条件では出してこ

ないのではないか。そういう想定によるものです。

 なお、この計算を純然たる期間計算(従来の借地権は半永久的に存続するが、定期借地

権は期間が有限である)にかかわらしめるために、期間以外の要素は除外して考えます。

結論は二つあります。第一は、定期借地権においては、権利金割合(権利金の地価に対す

る割合)は現行の借地権に比べて相対的に低いものとはなるけれども、地代は現行の借地

権と同様の水準であっていいということです。

 ここでは、三つのモデルを用いております。このことを観念的に理解していただくため

に、次の図をご覧いただきたいと思います(図 在来及び定期の理論地代・実際地代)。

現在の借地権ですと、期間は半永久的に続く。権利金も、年々の地代を還元した価値も、

地代が上がらなければ一定の水準で続きます。定期借地権の場合には、これが有限のマス

の中におさまります。権利金そのものが減るのではなくて、計算上はその在り高がだんだ

ん減っていく。それはなぜかといいますと、この中から年々の収入に相当する分をなし崩

し的に充当していくという計算にならざるを得ないからです。

 ところで、賃科価値がだんだん減っていくように見えますが、これは地代が減っていく

のではありません。一定水準の地代をやってもそれを収取することができる期間が短くな

れは、地代を収取する価値としては下がっていきます。それを埋めているのは、期間満了

のときに土地が戻ってくるという価値(復帰価値)です。それは戻るまでの期間が長いほ

ど小さな額になります。期間が経過するにつれて復帰価値が膨らんできて、権利金と賃料

価値の減少をふさぐようなかたちになります。

 ただし、これは、理論地代における関係です。理論地代というのは、権利金をとったあ

との残存元本に対して、金利水準の利回りの賃料ということですが、それは現在の地代の

一○倍以上になりますので、実際の地代を考えると圧縮される、隙問が出てくるというこ

とを、図に示してあります。

 その変化については、表をご覧ください(表 権利金割合の変化・表 実質賃料の粗利回

りの変化)。権利金の割合が、理論地代の場合でも、例えば在来で八○%の権利割合のと

ころで、五○年の定期借地権ですと七六%、三○年ですと六六%ということで、このまま

では期待されているほど下がりません。実際の地代水準の場合に賃料価値は圧縮されるが

復帰価値のほうは圧縮されないという差が生じます。そうすると権利金割合が下がって、

六九%と五六%という数字になります。

                 権利金割合の変化

80 70 60 50

50年 30年 50年 30年 50年 30年 50年 30年

理論地代 76 66 66 58 57 50 47 41

実際地代 69 56 55 40 42 25 28 10

地価上昇 49 38 35 22 21 74 7 0

 *地価上昇率は年3とする。

               実質賃料の粗利回りの変化

50年 30年 50年 30年 50年 30年 50年 30年

理論地代 51 45 39 33

実際地代 47 43 38 32 30 41 21 10

地価上昇 34 31 25 19 16 08 07 03

 *実際地代の粗利回りは03とする。

 

 

 さらに、復帰価値の有利性を見るのが、次の式です。

      (1+r)n−1    (1+r)n

I‘(n− ――――――――――)×―――――――― =

      r(1+r)n     (1+r)n−1

     R      1      (1+s)n(1+r)n−1

nI‘+――― ・ ――――― ・ ――――――――――――――――

     r    (1+r)     (1+s)(1+r)−1

     L      (1+s)n(1+r)n−1

− ――――――― ・ ―――――――――――――――

  (1+r)n     (1+s)(1+r)−1

 ここで言いたいことは、期間が有限であるというだけでは権利金の割合は大して下がら

ず、復帰価値の作用が権利金の割合に響いてくるということです。

 二番目の結論は、権利金は、この図にあるように観念的にはその在り高がだんだん減っ

ていくということです。そうすると賃料で埋めなければならないかというと、そういうこ

とにはならない。復帰価値が理めるので、それはそのままでいとです。

 一番最後の表では、利回りを出しております。これは権利金の割合が少なければ下がり

ます。というのは、権利金は金利計算をしておりますが、地代のほうは総利回りで○・三

を使っております。○・三というのは、仮に底値が三割だと一%になるということです。

この基は一種の積分計算をしておりますが、本当はこの方法ではまずい。連続分布に直さ

なければいけないのですが、そうするとますます拒絶反応が起こりそうな式になりますの

で省略しました。

 東京の場合ですと収益率が非常に下がってきておりますから、こういう計算に対して需

要者がどういう対応に出るのか。どうしてもほしいとなれは所定の利回りより高くても需

要はあるでしょう。が一般にはどのような反応となるかが問題です。利回りの変化は、ま

だ計算の途中ですので、目安として見ていただきたいと思います。

司会(吉田) ひきつづき同じく不動産鑑定士の澤野順彦氏からご報告いただきます。

定期借地権の価格:澤野順彦(弁護士・不動産鑑定士)

 今日は定期借地権の価格について考えてみることになりました。まず問題のとらえ方と

して、「評価論」の分野で定期借地権の価格というと、定期借地権の価格ほどのように評

価するかということになりそうですが、今日はそういう意味ではなく、定期借地毎にも借

地権価格は発生するのか、定期借地権において借地権価格はどのような意味を有するか、

こういった制度の根幹的な問題についてふれてみたいと思います。そこでまず、なにゆえ

に定期借地権において借地権価格が問題になるかについて述べます。ご存じのとおり定期

借地権制度は、従来の借地権では新たな借地供給が望みえないということで、この制度が

できました。その主な理由としては、一度貸したら返ってこない、借地権価格が非常に高

い、地代がきわめて安いとすることで解消できます。また地代が安いことについては、要

綱試案のなかにある、いわゆる地代改定特約を有効に利用することにより、これも回避で

きる。残ったのは、この借地権において借地権価格が従来の借地権と同じように高額に発

生すると、供給を阻害する大きな要因になるのではないかという問題が生じます。この点

につきましては要綱試案が出されるまで、またそれ以降も、定期借地権について権利金を

徴収するのか、徴収するとしたらどの程度とったらよいか。権利金をとった場合に、借地

権価格は発生するのかどうか。こういう経済的な観点からはほとんど論じられていないよ

うに思います。

 この定期借地権の価格は、どういう場合に、どういう点が問題となるかというと、最初

に設定する場合の設定権利金をいくらとするか。それから定期借地権でも、当然建物を建

てる、その建築費のため、また定期借地権を取得するための担保設定が必要です。この場

合の担保権として、どれだけの価値を認めうるか。また定期借地権を譲渡、転貸する場合

の譲渡、転貸価格とか、承諾料の額を算定する場合、まだ第三者による差し押さえがなさ

れた場合に、どのような換価価値があるかなどです。

 さらに建物買取型の定期借地権にあっては、この建物買取価格のなかに、いわゆる場所

的環境価格というか、定期借地権価格的なものが含まれるのかどうか。それからまた定期

借地権が消滅したときに、まったく清算が必要でないということにはなっていませんが、

なっていないということは、定期借地権消滅時に定期借地権の残存価値がなんらかの意味

をもつようになるのではないかというような問題があります。

 そこで、こういう問題を解決する前提として、定期借地権に借地権価格が発生するかと

いうことをひとまず考えてみなければいけないことになります。まず定期借地権に借地権

価格が発生するかどうかです。従来の借地権については相当高額な借地権価格、例えば東

京の新宿であれば、商業地ですと土地価格の九五パーセント程度が借地権価格です。この

ようにきわめて高額な借地権価格が発生していますが、まずこの借地権価格と言った場合

に、定義をあらがじめ限定しておかなければいけないと思います。一つは、第三者との交

換を前提にした、交換といっても譲渡、転貸または差押さえの換価、担保権の設定という

意味ですが、その交換価値を前提とした場合の借地権価格という場合です。もう一つは契

約終了時に利害調整を必要とする場合の、当該地主と借地人間でどれだけの借地人に帰属

する経済的利益を認めるべきかという意味においての借地権価格の存在です。この両方の

意味から、この問題をとらえる必要があると思います。

 そういう意味から言いますと、まず定期借地権といっても、借地人が借地を利用する効

用はあります。例えば用益的利用、担保的利用、処分的利用、これは、程度の差はありま

すが、従来の借地権とまったく同様に存在します。そうすると借地人に帰属する経済的利

益、すなわち借地権価格は当然に存在する、発生するであろうと思われます。

 では次に、どのような理由によってこの借地権価格は発生するか。もちろん交換価値と

考えれば取引が存在することが前提ですが、そういう意味ではなくて、定期借地権でもな

にゆえに借地権価格、借地人に帰属する経済的利益が発生するかという意味合いです。簡

単にいえは、借地権価格の発生原因、ないしは内容は、三つに分けられると思います。そ

の一つは、借地法によって保護されている法的利益の経済価値分です。二つ目は権利金の

支払とか、いわゆる草分的借地権といいますが、借地人に寄与、貢献があった場合の、そ

の土地価格に対していくぶんかの価値を認めるという寄与、配分利益に相当する額です。

三番目は、宅地の需給の不均衡による、いわゆる付加価値利益の発生です。

 そういうことを前提にして、次の問題も考えてみたいと思います。まず、どの程度の借

地権価格が発生するか。既存の借地権については、すでにふれましたように都内では七○

パーセントとか九○パーセントという借地権価格が発生しています。他方、地方都市では

、借地権価格はゼロというところもあります。そういう意味で、地方、地域によって異な

ります。この定期借地権制度が施行された場合に、主に都市的な土地利用かもしれません

が、そこでどの程度考えられるかは、定期借地権の類型によって異なるのではないかと思

います。

 まず長期型については、現行の借地権とほは同様の借地権価格が発生すると考えてよい

と思います。ただ、登記事項とされるかどうかは別にしまして、定期借地権であるという

心理的なマイナス要因が働くことはもちろんのこと、定期借地権が終了間近になれは、当

然相当額の減価はあると思います。

 次に短期型の場合も、譲渡、転貸、差押さえ、担保のことを考えますと、期間中は相当

額の借地権価格は当然発生しますが、長期型よりは早めに期間が終了することから、それ

なりの低い定期借地権価格になるだろうと予想されます。

 建物買取型では、借地権価格が建物買取価格に変わってしまう、還元してしまうという

可能性が非常に高いと思います。最高裁の判決では、借地法四条、一○条の建物買取価格

は、建物の時価プラス場所的環境価格と言っています。この場所的環境価格ですが、私が

先ほど分類した借地権価格のうちで、借地契約が終了することにより、法的保護利益と、

譲渡、転貸を前提にした付加価値利益はなくなる。しかし権利金の支払とか借地人の寄与

、貢献した分は、理論には不当利得に相当するものですから、契約が終了しても残ります

 これは法律でどのように規定しても、私は残るだろうと思っています。その部分は「建

物の時価」、いわゆる最高裁の判決でいっている場所的利益そのものではないかと考えて

おります。

 では次に、定期借地権消滅時にこの借地権価格はどうなるか。いま申しましたように、

借地人が寄与、貢献した、また当初権利金を支払った場合には、その権利金の当初の土地

価格に対する割合相当額は、当然利害調整として清算されるべきだと思います。以上の定

期借地権価格についての考えは、要綱試案を前提にしておりますが、それでは立法上どの

ような措置をすればよいかを簡単にまとめます。

 一つは、権利金に関する規定を設ける必要があるだろう。これは契約自由に任せるか、

それとも長期型、短期型、建物買取型で、それぞれの類型ごとに考慮する必要があるかて

す。二番目に、担保に関する点です。当然、抵当権が設定された場合に、どの程度の借地

権価格が存するか。この点はドイツの地上権令のような規定を設ける必要があると思いま

す。三番目に清算に関する特約に関することです。清算の要否、清算を排除する特約の効

力、建物買取価格の特約、このようなことが定期借地権価格に関し今後検討される必要が

あると思います。

司会(吉田) 次に、山梨学院大学の藤井俊二氏がら国際比較、主として権利設定の対価

 の問題、借地権終了時の建物について述べていただきます。

欧米諸国の定期型土地利用権:藤井俊二(山梨学院大学)

 私は、国際比較といいましても、その対象とするところはイギリスと、アメリカは各州

で法律が違うので、借地が盛んに行われているハワイ州を対象にしています。それから大

陸法としてフランス、西ドイツです。この四か国について、比較をしてみたいと思います

 さて、日本の借地権と欧米の土地利用権の根本的な相違ですが、イギリス、アメリカで

は、この権利が時間的に区切られた土地所有権の移転と理解されております。またフラン

スでは、普通法上の賃貸借も表に載せましたが、これはきわめて例外的で、考慮に値しな

い程度のものです。これは債権ですが、これ以外の永代賃貸借、建築用賃貸借はすべて物

権です。また西ドイツの地上権、あるいは世襲建築権と訳される方もおりますが、これも

物権です。このように欧米諸国の土地利用権は物権である。これに対して、わが国は地上

権の場合もありますし、債権である賃借権の場合もある。ほとんどの場合が賃借権て、こ

の点でまず大きく異なっています。

 欧米緒国では、これらの権利に関して、ほとんど存続保障がありません。今回の要綱試

案で構想されているように、期間が満了すると、その権利は消滅してしまうというもので

す。さて、定期借地権の設定に際して権利金が安くなるかどうか。あるいは権利金の授受

の慣行がなくなるか否かが問題になっております。まずイギリスを見ますと、これは所有

権の授受と同じように考えられていますので、所有権の授受の対価に等しいものが支払わ

れています。その代わりに地代がきわめて安い。

 ハワイ州では、この権利金の授受はほとんどないと言われております。ただ商事用の借

地につき、その借地が繁華街にあったりなどして収益性が非常に大きい場合に、プレミア

ムを支払う場合があるそうです。これが、わが国でいう権利金に相当するものと言われて

おります。こういう例外的な場合があります。

 フランスでは、永代賃貸借はシンボリックな対価と言われておりますが、非常に安く、

地代も安い。建築用賃貸借の場合はかなり高額の設定金が支払われる場合が多いですが、

この場合は地代の前払いの性格が強い。したがって地代は、一括前払いされたかたちにな

ります。西ドイツの地上権の場合、通常の場合は権利金をとらず、地代を定期的に支払っ

ていくことが多いのですが、一括前払いのかたちで権利設定金を支払う場合があります。

これもやはり地代の一括前払いという性格を持っていると理解されております。この場合

は、したがってその後は地代を支払わない場合が多いことになります。

 このように、権利を設定する場合の権利金と言われるものは、わが国における権利金の

ようなものはきわめて例外的です。ただ西ドイツなどでは、借家について、アプシュタン

トゲルトAbstandgeldという、日本でいう立退料のようなものが支払われる場合がありま

す。これは、西ドイツの借家法では、借家人の存続保障は非常に強い、このために立退料

のようなものを支払わなければ出ていかないということで、そのような慣行が生じてきて

いるようです。これが、日本でいう権利金に相当するものとも理解できます。存続保障の

ある借家に関しではこのような慣行が形成されているようですが、借地に関してはあまり

ないようです。

 次に譲渡、転貸、担保化につきましては、物権ですから、これは自由にできます。

 次に定期借地権で非常に問題となるのは、借地権が終了した際に、建物を取り壊して更

地で返還することが原則になっていることです。この問題について、欧米諸国の処理を見

てみますと、イギリスにおいては、土地を借地人が逆に買い取るという、水本先生は借地

権の解放と言われておりますが、これが一九六七年の立法によって行われております。借

地人のほうで土地を買い取るかたちになりますので、建物は取り壊さなくても済むことに

なります。レジュメの表では原則として土地所有者に建物は帰属すると書いておきました

が、これは土地と建物は一体であるという、欧米諸国の法律原則によります。したがって

借地権が消滅すると、その建物の所有権は土地所有者に自動的に移転するのが原則です。

これを法律的に説明すると、附合です。土地所有権に建物が附合するので、土地所有者の

ものになりますが、イギリスでは長期賃貸借が終了するときに土地買取の立法をして、借

地人に土地所有権を移転するようにしております。

 

 

             表 欧米諸国の定期型土地利用権

イギリス アメリカ(ハワイ) フランス 西ドイツ

土地利用権

の種類 長期賃貸借 リースホールド 普通法上の賃貸借 永代賃貸借 建築用賃貸借 地上権

権利の

性質 所有権 所有権 債権 物権 物権 物権

存続期間 一般に、99年 一般に、55年 最長期は、99年 18〜99年 18〜99年 法律上の制限はない

*40〜99年が一般的

(永久の地上権も可能)

権利設定の対価 所有権譲受と同等の対価を支払う。 商事用について、プレミア ムを支払う場合がある。 なし シンボリックな対価(低廉な対価) 高額の設定金が支払われる場合が多いが、性格は地代の前払い。 設定金が支払われる場合もあるが、性格は地代の一括前払い。

地代 低額な地代 一般に,15〜30年間地代を固定、地代の増額は、土地の適正市場価格に4%を乗じた額に制

限される。 賃貸借上の賃料 低額な地代 一括前払いが多い。(高額) 地代増額は、居住用について、衡平の見地から制限する。非居住用については、制限がなく、地価指数適応条項の等特約がなされる。

譲渡・転貸 自由 自由 賃貸人への通知と賃貸人の承諾を条件とする。

*承諾は事実上自動的に与えられる。 自由 自由 自由

担保化 可能 可能 不可能

*建物に抵当権を設定する。 可能 可能 可能

終了時の土地の処理 利用権の更新または借地人の土地買取権 利用権消滅

*但し、戸建て住宅用借地人の土地買取権 @建物の状態が良好であれば、合意更新A老朽化している

場合Aは、利用権消滅 消滅 消滅 消滅

*土地購入権の特約または買取強制条項

利用権終了時の建物の処理 原則:土地所有者に帰属

例外:土地買取権行使により借地人に帰属 @建物法規条項により、土地所有者に帰属(建物の公正な市場価格または一定の金額の支払いを特約する場合が多い) 建物が老朽化している場合に、利用権は消滅するから、建物取壊し、更地返還 無償で土地所有者に帰属 無償で土地所有者に帰属 土地所有者に帰属。借地人は、償金請求権を有する。

利用権終了時の建物賃借人の処理 通例、借地人が土地買取権を行使し、従前の借家関係が継続する。 借地権が消滅すると、借家権も消滅する。ただし、借地人が土地買取権を行使したときは、従前の借家関係が継続する。 更地で返還するから、この問題が生じない。 建物を取得した土地所有者との間で建物賃貸借は存続する。

*永代賃貸借と建築用賃貸借は同じであるとの理解を前提とする。 建物を取得した土地所有者との間で建

物賃貸借は存続する。 建物所有者となった土地所有者が建物賃貸借関係を承継する。

ハワイではやはりイギリスと同じような法律が、一戸建ての住宅用の借地について作られており、土地の買取権を認めています。すなわち、まず州政府が、地主から貸地を収用して、それを借地人に払い下げるというかたちになっております。

 フランスでは、建物は無債で土地所有者に帰属することになっています。ドイツでは、地上権令で、建物は土地所有者に帰属する、その代わりに、その建物の代金に相当する償金を借地人に支払うという規定になっています。しかし、土地を購入する特約を結んておくと、契約が終了したら、借地人のほうで土地を買い取ることができます。判例も、土地を買い取るように借地人に強制する特約も有効であるとしています。

 また、借地権が終了した場合に、借地上の建物にいる借家人の地位はどうなるか。イギリス、アメリカなどでは、土地買取権が行使されると、当然建物の所有権は借地人のままで、借地人は地主になりますから、借家人はそのまま住み続けていくことができます。フランスにおいても、永代賃貸借、建築用賃貸借、どちらの場合でも、建物は地主に移転じますが、建物を取得した土地所有者との間で建物の賃借権は存続します。

 西ドイツの場合にも、地主が建物を取得した場合には、地主との間で建物の賃貸借は存続することになります。このように欧米諸国の定期型土地利用権と、わが国の要綱試案で構想されている定期借地権とでは、かなり大きな違いがあります。要網試案では、債権たる賃借権が定期借地権になる、それから更地で返還することが原則と考えられています。したがって借家人の存続保護は考慮されていません。定期借地権は、存続期間を限定されているからこそ、収益の確保等投下資本の回収を保障するため、物権的な保護を十全に与えられるべきだという指摘があります。欧未諸国の定期型土地利用権は、まさにこういう物権的な保護が十全に図られているものてあると・いう点で、要綱試案が構想している定期借地権とはかなり違うものといえると思います。

司会(吉田) ありがとうございました。「総論」の報告は、以上です。引き続き「各論」の報告に入ります。まず日本不動産研究所の東用始比古氏から、「長期型定期借地権 」の問題についてふれていただきます。特に期間満了時の返還の保障の問題を中心にお 話をいただきます。

長期型定期借地権:東川始比古

 端的に、長期型の特徴に入りたいと思います。長期型の定期借地権は期間が五○年、な

いしは六○年と、試案では考えられています。期間が最も長く、しかも借地人の属性にお

いても借地上建物の用途についても、なんら制約が課せられていないという点で、四つの

定期借地権のなかでも基本的な類型であると思います。

 もちろん実際の需要がどうであるかとか、あるいは現実に普及する主たる形態はどうで

あるかということは別の観点で、いわゆる類型としては、この長期型が基本類型になると

考えられます。覇型の特徴として、契約の更新がないので、借地権が消滅する場合に生ず

る建物買取請求権に関する規定を排除する特約を認めることにしています。土地所有者に

とって、建物を買い取ることによる居住者との、いわゆる借家人との法律関係が残される

のを避けることが、その理由であると言われております。したがってこの類型ては、期間

満了後は借地上建物が収去されて、更地で土地が所有者に戻ってくることが期待されてい

るわけです。

 買取型を除き、短期型の場合も、この買取請求権の特約排除は可能です。ただ短期型と

か買取型は、現行法下も、よく類似した制度がすでに行われており、ある程度の予測は可

能です。しかし長期型となると、非常に不確定要素が多くなると考えられます。とりわけ

長期型の問題点は、まず土地の返還の保障です。五○年という長期にわたって借地を貸す

わけですが、それが確実に将来返ってくるのか。その予測が非常に困難だと、土地の返還

は実際には保障されていないのではないかという危惧が主張されております。

 確かに現行法でも、昭和一六年の正当事由制度が導入されるまでは定期借地でしたし、

途中で法改正がないとは言えない。比較法的に見ても、藤井さんから指摘がありましたよ

うに、イキ゛リスとか八ワイでは、定期借地の制度は期間の満了前に借地人による底地の買

取りを認める制度を立法で導入しました。まさに事態は逆に、貸したものが返ってくるど

ころか、借りた人に土地の所有権が移転する場合もありうるわけです。

 ただ、これらは改正問題が現在論議されている背景とか、借り主保護から当事者の利害

の調整へという現在の改正の方向が、将来も変更なく維持されるのかという非常に困難な

予見可能性の問題に帰すると思います。価値親の転換とか経済情勢の変化については、五

○年前の人々が今日を予測できなかったのと同様に、われわれも五○年後の状況を端的に

把握できてはいません。しかし現下の状況を認識して改正問題に対処することは十分可能

であろうと考えております。

 次に、執行上の問題です。借地人が建物を取去して返還するとの特約を付することは、

もちろんできますが、借地人が任意に履行しなかったり、あるいは履行の資力がない場合

は、地主は強制執行して建物の収去費用や、その他の費用を借地人に請求するほかはあり

ません。現在でも、すでに堅固な建物の取り壊し費用はかなり高額に上ると聞いておりま

す。地主としては、返還期に、借地人をして建物取り壊しの支払の費用を確保させ、その

履行を確実に促す手段を見つけることに苦労するかもしれません。

 これらの問題は、短期賃貸借の場合と同様に、広くは裁判の執行上の問題です。ここに

おける借地、借家の改正問題にとどまらず、他の分野とも並行して解決すべき問題であろ

うと思います。したがって、これらの問題は、長期型定期借地権の法的構造とか法的シス

テムに内在する欠点であるとは、必ずしも言えないと考えられます。

 ただし以下に述べる「借家人の問題」と「公示の問題」は、定期借地権の制度、とりわ

け長期型に内在する問題で、この問題の処理が長期型の供給に大きく作用すると考えられ

ます。それは、まず定期借地上の借家人の問題です。〔母物の借家人が、長期型であると

いう特約を知って借家契約を締結している場合には、定期借地権の終了と同時に建物の明

渡しをすることになっています。特約を知らない場合、いわゆる善意の借家人に対しては

、明渡しについて、地主に一年問の猶予請求をできるという制度が考えられております。

 この善意の借家人の取扱いについて、この措置でよいのかについては非常に議論が多い

ところです。このほかにも、善意の借家人は現行で認められている程度の立退料は認めら

れるでしょうが、その希求の相手方が、当然建物の所有者、つまり借地人となるわけです

が、現実の問題として土地所有者にこの影響が及ぶのか、及ばないのか。その支払いの請

求確保の手段についても、試案の考えでは十分でないと思われます。

 それから公示の問題です。一般的に定期借地権の設定については、公正証書でその効力

発生要件とすることになっていますが、公示手段として登紀の必要があるのではないのか

ということが言われております。例えば定期借地権を普通借地権として談渡されるような

ケースがないのか。その防止の必要性はないか。定期借地権上の建物、しかもマンション

のような区分所有の建物の譲渡の場合に、その敷地の利用権は定期借地権であることをは

っきりと知らせるべきである。そのような点から、登記を要件とすべしという主張は非常

に強いのです。

 更新を認めない定期借地権制度自体は合理的で、比較法的にも類似の制度を見出すこと

はできます。もっともこの長期型のように、期間満了後は更地にして返還するという点が

、わが国における定期借地権の特徴であると考えられます。にもかかわらず、一定期間の

なかて建物を取り壊して、その費用も合めて合理的な計算の下に土地を借りたいという需

要があれぱ、これを拒む必要はないと考えられます・二−ズはかなりあると考えられます

が、問題は、供給側です。やはり貸し主側にとって、上記のように長期の定期型借地権に

さまざまな問題点があります。

 これらのネックがクリアされない限り、借地の供給に不安を覚えるのはもっともです。

したがって、従来ない制度だけに供給側に対してはもちろん、利害関係人となって表われ

るであろう他の譲受借地人や借家人への配慮、制度の公告、趣旨の徹底がぜひとも必要で

あると考えています。

 これら、借家人の問題、公示の問題は、既存借地の関係からも十分具体的に予見できる

問題です。したがって新制度創設に際してこの問題に対する措置を講じておかないと、法

の不備が指摘される可能性が高いと考えます。

司会(吉田) 続いて亜細亜大学の山野目章夫氏に、「短期型定期借地権」の問題でお話

 をいただきます。

短期型定期借地権:山野目章夫(亜細亜大学)

 短期型定期借地権についても、他の定期借地権と同様、制度全体のあり方をどのように

評価すべきかといった大局的な見地から、細やかな法技術的問題に至るまで、多岐に渡る

論点がありますが、本日は前者を中心に報告します。短期型定期借地権は、「改正要綱試

案」が提示する諸類型のうち、唯一、利用目的を特定された定期借地権であり、その評価

は、何よりも、このような特質に即して考えるべきであると思われます。すなわち、一方

では、短期型定期借地権の設定という仕方で行われる事業用借地が居住用借地を事実上駆

遂する危惧を否定しえません。他方、事業用借地市場それ自体に視野を限る場合にも、事

業用借地が実際上多くは短期型定期借地権以外の形態においては供給されにくいという結

果になるとしますと、とりわけ中小事業者にとっては、生業の基盤を脅かされる事態とも

なりかねないと思われます。そのような不安が特に地方都市に強いことも、例えば日本住

宅総合センターが行った実態調査などからうかがい知ることができます。

 短期型定期借地権の発想に適合する借地需要としては、「要綱試案」の説明などを見る

と、例えば外食産業等の需要が指摘されています。現実に、そのような借地需要が存在す

るであろうことは、否定しえないと思われますが、しかしそのことはより重要と評価すべ

き他の借地需要への十分な配慮を伴うことなく短期型定期借地権の組織づけを行うことを

亳も正当化しないというべきだと思います。

 このような原則的見地から、短期型定期借地権のあり方については、当面次のように考

えるのが適当であると思います。

 すなわち、まず、その設定を許容する地域は大幅に限定すべきてあり、具体的にはおそ

らく首都圏ないしはそれに準ずる大都市圏に限るのが妥当と考えます。

 また、それら大都市圏においても、短期型定期借地権の設定は、無制約にではなく、す

でに『法律時報』の座談会等においで指摘されているところですが(六一巻七号一六頁)

、土地利用計画との間の一定の連繋の下にのみ許容するのが適当であると考えます。

 ちなみに、短期型定期借地権を以上のような二重の制約、すなわち地域の限定と計画と

の連繋という二重の制約に服せしめるという提案は、結局、短期型定期借地権の法律化を

、民事基本法である借地法の改正に含めて行うことは適当でないという見地に基づくもの

で、その点では、今般の改正作業のあり方に対する基本的な批判を含む趣旨と考えていた

だきたいと思います。

 ここで「要綱試案」の提示する短期型定期借地権という特定のイメージを離れて一般論

を申しますと、普通借地権の法定最低存続期間よりも短い期間の借地権をなんらかのかた

ちで考案してみるという必要、その余地をあまねく否定すべきかということは、なお検討

の必要があると思います。そのことは、「要綱試案」の提示する短期型定期借地権に対す

る評価として述べたことと、矛盾するものではありません。

 例えば、一時使用のための借地権を定める現行借地法九条の運用に伴う不明確、不安定

からくる問題を解決するため、すなわち現行の一時使用借地権の合理化の必要という見地

から、あるいはまたいわゆる社宅の建築を目的とする借地などのために、そのようなもの

を考える必要はあるかもしれません。しかし、それらの形態の借地権は、いうまでもなく

「要綱試案」の提示する短期型定期借地権とは性質を異にしますので、ここでは深く立ち

入らないことにします。

 最後に短期型定期借地権につきましては、なお若干の問題が残っております。短期型定

期借地権の要件構成上問題としては、法人成りの横行による形骸化の危惧がありますし、

短期型定期借地権の普通借地権への転換については、短期型定期借地権を普通法上の制度

とすべきではないという観点から慎重に考えるべきことがあります。

司会(吉田) 次に、上智大学の山本豊氏から、「買取型定期借地権」についてご報告い

 ただきます。とりわけ定期借地権全体のなかでの買取型定期借地権の位置づけを中心に

 してお語をいただきます。

買取型定期借地権:山本豊(上智大学)

 各論では法技術的な問題を中心にして扱うということですが、細かい問題を扱う際にも

、基本的な性格が定まらないと議論ができませんので、定期借地権全体のなかでの買取型

の位置づけをどうとらえるかを中心に述べます。

 この買取型の特色は、借地期間が満了すると、地主が借地人から建物を買い取るという

点にあります。また、借地期間経過後の建物利用者の保護という点につき、法定借家権を

認めるという配慮がなされております。ですから、更地返還を原則とする他の定期借地権

類型に対して抱かれているような危惧、例えばスラム化のおそれがある、あるいは建物利

用者の立場が不安定になるといった批判は一応免れています。したがって、そういう意味

では一定の評価ができる類型であると思います。

 ところで「要綱試案」は、特に具体的な二−ズがあると立案者が予想したところにしぼ

って、四つの類型を立てています。この買取型について前提とされた二ーズはどういうも

のかというと、立案当局者の「説明」という文章によれは、居住用建物のための特別の借

地権という位置づけがされるであろうと予想しています。居住用建物のためということが

、一応構想の前提となっているようです。この期待どおりに、買取型の利用によって良好

な住宅の供給が増えるのであれば、非常に結構なことだと思います。

 このように居住用という位置づけをすると、個別の問題点についても、居住用という目

的に即して考えていけばよいのではないかと思います。例えば、法定借家権を特約で排除

することを認めるかという問題点も指摘されていますが、居住用という観点からみると、

認めるべきではないと思います。

 また借地期間終了後に、その建物の借家人、あるいは借地人で借家人に代わった人に、

家主から解約申入れがなされるときに、買取型の定期借地権終了によって生じた法定借家

権であるということで、簡単に正当事由が認められては困ります。定期借地上の借家であ

るという事情は、正当事由を肯定するファクターとして、ことさらに重視すべきてはない

と考えます。

 そして期間の点についても、やはり居住用としてみますと、「要綱試案」ては二○年以

上とされていますが、むしろ普通借地権と一律に三○年以上としたほうがいいのではない

かと思います。

 問題は、果たして実際にそのようにこの買取型定期借地権が機能するだろうかというこ

とです。この点については、私はやや悲観的な見通しを持たざるをえません。まず、「説

明」の文章では居住用建物のための特別の借地権ということで考えられていますが、「要

綱試案」では買取型定期借地権の要件として、そういった利用目的の限定が付されている

わけではありません。したがって実際には、先ほど土地信託との関連での本田さんのご報

告でもありましたように、特に地価の高い地域では、むしろ事業用ビルのために利用され

るのではないかという予測が可能です。こうなりますと、当初考えられた二−ズとはやや

ずれてくることになってきます。

 この点については、事業用建物のための借地は、場合により期間を最長の二○年とした

上で、短期型のほうで供給されるのであって、買取型では実際上出てこないと考えられて

いるのかもしれません。しかし、それはそれでかなり間口を含む。つまり事業用のものは

、主に短期型て供給されるとなりますと、かなり問題を含むことは、先ほどの山野目さん

のご報告でも指摘されたとおりです。買取型について言えば、住宅のためという性格づけ

をするのであれば、やはりその趣旨に沿って利月目的を限定するといった措置が必要なの

ではないかと考えます。

 最後にこのような制度が実現されたときの、若干の問題点を述べておきます。一つは買

取型に固有の問題ではありませんが、短期型のような類型を設けると、貸し手はどうして

もそちらで貸したがる、そうすると、なかなか買取型では貸してくれないのではないか。

せっかく住宅供給の促進のためにこういう類型を作っても、あまり利用されないのではな

いかという心配があります。これについては、先ほど来のご報告でもいろいろな予測がさ

れていて、非常に難しいところだと思います。

 さらにもう一点、これは土地信託との関係でご指摘がありましたが、土地信託と買取型

定期借地権の間に機能的な類似性があることは否定できません。買取型定期借地というこ

とで、どのようなデベロッパーでもこういったかたちの開発ができるとなった場合に、そ

れが果たして良好な都市環境の整備につながるという保証があるか、そういった点につい

て、懸念がないではありません。それは、あるいは借地法の問題ではなくて、都市計面の

問題になるかもしれませんが、制度を設計するに際して、当然考慮に入れられなければな

らない問題だと思います。

司会(吉田) 続きまして早稲田大学の五島京子氏に、「生涯型定期借地権」についてご

 報告いただきます。主として、家屋の譲渡に伴う借地権の譲渡、あるいは、転貸の可能

 性の問題に焦点を当てていただきます。

生涯型定期借地権:五島京子(早稲田大学大学院)

 まず「生涯型定期借地権」の制度趣旨について述べます。「要綱試案」では、建物買取

型定期借地権の一類型として「存続期間を借地権者及びその配偶者の生存中とする借地権

」を認めることとしています。短期型定期借地権のように、借地権者と建物の利用目的を

限定してはいませんが、「試案」の説明によりますと、「高齢化社会を迎え、高額の権利

金の負担なしに生存する限りという期限で、居性用の建物を所有したいという、主として

定年後の老夫婦の要望にかなった借地権」とする趣旨と解されます。

 すなわち借地権者と利用目的に限ってみれば、短期型とは反対に、借地権者を自然人に

限定し、利用目的を居住用の建物所有に限定する定期借地権と構成できるのではないかと

思います。

 まず、第一の問題は、人の死亡という不確定期限付契約の合理性についてです。終生の

居住を保障するという目的自体は、非常に合理的であると思われます。現在、このような

死亡を不確定期限とする契約は、民間の有料老人ホーム(これはほとんどがケアつきてす

)の入居契約に見られます。そこでも、終身居住権の保障は最大の視点とされております。

 今後、家事援助サービスなどの在宅サービス、あるいは在宅ケアが普及し充実していく

であろうことを考えたとき、終身の借地をして、ついのすみかを建てるという目的は十分

に合理性を有すると甘えるのでほないでしょうか。

 次に、配偶者について若干ふれます。「試案」によりますと、存続期間を借地権者と配

偶者の生存中とすることと規定しています。そこてまず、内縁配偶者について問題が生じ

ると思います。「試案」及び「説明」では、内縁配偶者についてまったく触れられていま

せんが、これを排除すると、借家法における内縁配偶者の継続居住の保護と均衡を欠くこ

とになりかねません。今回の「改正要綱試条」の第二部第四て、配偶者を含む二親等内の

親族およびこれと事実上同様の関係にある者がいた場合には、相続人に優先して、直接こ

れらの者に借家権が承継されるとされております。この規定との兼ね合いで、若干均衡を

欠くことになります。また、もしも内縁配偶者も含めるとするならは、明文の規定が必要

ではないでしょうか。

 また、借地契約締結後に婚姻した配偶者についても、「試案」の説明ては、配偶者は借

地契約締結当時の配偶者を指すとなっていますが、そもそも人の死亡は不確定ですから、

借地契約締結後の婚姻によって配偶者となった者の生存期間の加算が、地主に著しい不利

益を及ぼすとは言いきれないと思います。あるいは借地人が独身である場合には、将来婚

姻することが予測可能であるとも言えます。

 次に、家屋の全部または一部譲渡による借地権の譲渡・転貸の可能性について考えてみ

ます。生涯型定期借地権の特徴は、存続期間をある特定の者とその配偶者の死亡という、

きわめて個人的な事象にかからせる点にあるのではないかと思います。これらの者が借地

上に居住していないときは、当該借地権を保護する根拠をどこに求めればよいのでしょう

か。

 すなわち、借地権者夫婦が、借地上の家屋に終生居住することを保障するのが生涯型定

期借地契約の内容であるとするならは、家屋の譲渡は、契約の本旨に反しているというこ

とすらできるのではないでしょうか。この借地権の譲渡・転貸に関しては、三つの考え方

があると思います。

 第一については、私は制度趣旨の説明のところで、借地権者と利用目的は限定されてい

るという点に関して、短期との共通点を指摘いたしました。それを強調するならは、これ

は「要綱試案」の二3(一)にある、借地法九条の二の適用を排除し、同じく「要綱試案

」の二3(二)にある、賃貸人(=地主)の承諾がある場合には、普通借地権の設定があ

ったものとみなすという、短期型であげられているような措置を、ここでも考えることが

可能だと思います。

 そして第二の考え方として、譲渡人の死亡を不確定期限とする生涯型定期借地権の譲渡

が考えられます。譲渡人つまり、最初の借地権者が死亡すると、定期借地権が消滅すると

考えるわけです。第三として、最初の借地権者の死亡がそのまま期限として続くのではな

くて、譲受人の死亡を不確定期限とする生涯型定期借地権の譲渡という考え方も可能では

ないかと思います。しかしこの第三の考え方は、譲渡というよりも、新たに生涯型定期借

地権を設定したものと変わりはないと思い、第二の考え方に基づいて、それを多少批判的

に検討してみました。つまり借地契約から離脱した者の死亡に存続期間が左右される定期

借地権の存続を認めることに、社会的意義は見出すことができるのだろうかと、私は疑問

を感じたのです。

 家屋の全部または一部賃貸の可能性については、石川信さんの報告に譲ります。

 次に、夫婦の一方または双方生存中も借地人側から建物買取の実行を請求できるとする

必要はないかという問題もあります。

 詳しくは述べませんが、最後に相続法との調整も問題になるかと思います。建物買取代

金を受け取るのは、建物所有者の相続人となると考えられます。最初に建物所有者が死亡

して、配偶者が残された場合、配偶者の家屋使用権の評価をどのように行い、配偶者の死

亡を不確定期限とする相続財産の処理をどうするかにあらかじめ配慮しておく必要がある

と思われます。売買代金の受取人をあらかじめ指定しておくことも、一つの方法ではない

でしょうか。有料老人ホームでほ、入居一時金の返還受取人を入居契約書で明示している

のがほとんどであるという指摘があるここから、こういうことを考えてみました。

 最後に、私はこの生涯型定期借地権を、少なくとも家を建てることができる程度の所得

や資産を有する層が利用可能な一つの選択肢と位置づけることも可能ではないかと思いま

す。

司会(吉田) 続いて、国士館大学の上原由起夫氏に「対抗要件・譲渡・損保」に関して

 ご報告いただきます。重要は、対抗要件においていただきます。

対抗要件・譲渡・担保:上原由起夫(国士館大学)

 定期借地権の登記の要否に関する問題については、まず昭和六○年の「借地・借家法改

正に関する問題点」では、登記をするということが前面に出ておりました。そこを見ます

と定期借地権については、「この借地権を譲り受け、転借し、又は担保の目的とする者等

第三者のために、何らかの方法で公示されなければならない。その方法としては、借地権

が期間の満了により当然消滅する旨の合意を借地契釣の一要素とした上、不動産登記上こ

れを登記するものとし、この合意は、登記することによって初めて効力を生ずるものとす

るか、又は登記しなければ第三者に対抗することができないものとする」、つまり効力要

件とするか対抗要件とするかはともかく登記が考えられていました。そのあとの「なお…

」というところで、公正証書ということがちょっと出てきていたのです。

 そこでこの問題点においては、定期借地権については登記ということが念頭に置かれて

いたはずです。「別冊NBL」二○号の稲葉論文、『借地・借家法改正の方向』では、登

記を要件とすることに固執する必要はないとしておりまして、結局それを踏まえて今回の

「改正要網試案」では、定期借地権の特約は、公正証書によってしなければその効力を生

じないものとする、つまり公正証書を効力発生要件としたわけで、登記については採用し

なかったのです。

 その理由は次にありますように、「定期借地権が特別の法律効果を有する借地権である

ことにがんがみ、第三者に対する関孫への配慮から、公示として登記を要求することにつ

いても検討が行われた。しかし、登記技術上の難点があるほか、登記を欠いた場合の効果

をどのようなものとするかが難しいこと、公示の相手方として問題となるのは建物の賃借

人であろうが、借家契約をするに当たり土地の登記簿を調べることはまれであろうから、

実賞的な保護手段となりうるか疑問であることなどから、『試案』では、採用されていな

い。ただし、建物買取型定期借地権の場合には、土地所有者が売買契約につき第三者に対

抗するため仮登記をすることが考えられるから、この限度では、登記による公示がされる

ことになる」というのが、「試案」の説明です。この試案に対して『法律時報』や『ジュ

リスト』による座談会では、かなり多くの学者が第三者に対する関係への配慮から、公示

として登記を要求すべきだと述べています。その理由は、例えば、土地所有者が土地を譲

渡する場合に登記があったほうが有利である、登記照覧の慣行を推進する、長期型定期借

地権付マンションの場合には、区分所有権譲渡に伴う借地権譲渡が、五○年の間に頻繋に

起こる可能性がある、あるいは長期型定期借地権の場合、相続が発生し、子孫も増えてい

ると公正証書の管理が困難になる、定期借地権であることを知らずに買い受けたり、担保

を設定するものが現れることも予想される、借家人保護の必要もある、などという理由で

す。

 そして「試案」において、登記は技術上難点があるからということについては、稲葉論

文で、「定期借地権てあることは、普通借地権に比して、地主には有利であるが、借地人

には不利なものである。借地権の登記は、その構造上、登記権利者は借地人で、登記義務

者は地主となる。その場合、登記権利者たる借地人に不利な内容の登記を義務づけ、ある

いは成立要件とすることが論理的に成り立つかどうかが問題となる」というのが、登記技

術上難点とされております。

 しかし、実際、登記があったはうが登記義務者に有利である場合には、登記義務者に登

記請求権がある。いわゆる登記引取請求権です。これは、昭和三六年一一月二四日の最高

裁判決(民集一五巻一○号二五七三頁)があります。一応これは通説だと思われますので

、この登記技術上の難点という点は克服し得ると思います。

 しかし、ここで私が言いたいことは、定期借地権を登記すればいいのかと単純に考える

のではなくて、私の課題は「対抗要件、譲渡、担保」ですが、定期借地権のそれぞれの類

型はかなり違っていて、この課題も特に公示、対抗要件という課題は、定期借地権を類型

ごとに分けて考察する必要があるのではないかと思われます。

 まず、長期型定期借地権の場合です。これは五○年ないし六○年という長期の存続期間

である。また、その存続期間が満了すれば借地関係はそこで終わってしまいますから、逆

に言いますと、その間は借地権者にフルにその土地を利用させるべきであると、考えます

 ですから、長期型定期借地権は、定期地上権とすべきであるというのが私の考え方です。

 先ほど藤井さんの報告にもあったように、比較法的には、そもそも借地権は物権にする

というのが法律常識です。わが国でもポアソナードの旧民法では物権としていたのですが

、現行民法典で債権たる賃借権も借地権となってしまったのは、一種のボタンのかけ違い

ではないかと思われます。それゆえに賃借権の物権化的傾向ということでごまかしごまか

し今日まできたわけです。本来、最初から物権であればよかったものを、結局本来そうあ

るべきものがそうでなかったから、そういうかたちでごまかしてきたのが現状である。そ

れなら、今度新しく定期借地権を作るならば、最初から定期地上権としてしまったほうが

いいのではないか。

 そうしますとこれは地上権ですから、もちろん譲渡自由です。土地の賃貸も自由てある

。賃借権だと、第三者による債権侵害行為の排除請求権のような面倒な議論もありますが

、地上権は物権ですから物権的請求権でいけますし、また損保化についても、民法三六九

条二項でそのまま抵当権の目的になるので、非常に筒明な処理がてきます。

 ただし抵当権を設定する場合には、担保価値としての借地権価格ですが、これは定期借

地権という性質から、存続期間の満了に近づくにつれ、やはり担保価値は急激に低下する。

 そういう問題は、先ほどの澤野さんの報告とも関連することです。

 それては公正証書はどうなのか。私は長期型は地上権としますから、その登記でいい。

しかしそれは単なる対抗要件ではなくて、この場合は効力発生要件とすべきであると考え

ております。実際に登記を、対抗要件でなくて効力発生要件とする例は、すでに民法三七

三条三項の抵当権の順位の変更にもあります。この場合は、それが望ましいであろう。そ

うしますと、わざわざ公正証書で別に効力発生要件にする必要はない。屋上屋を架すよう

なものですから、それは登記でいいというのが私の考えです。

 次に、短期型定期借地権です。この場合は逆に、私は、賃借権に限ると解します。地上

権、賃借権の両方を借地権といいますから、両方あり得るのですが、長期型は地上権にす

る、逆に短期型は賃借権に限るというのが私見です。そしてこの場合には登記不要です。

この場合には、その効力発生安件として公正証書を考えでおります。「試案」では、この

短期型定期借地権を法人でないものに譲渡し、または転貸する場合には裁判所による賃借

権の譲渡・転貸の許可等の規定を通用しないものとし、借地権者が短期型定期借地権を法

人でないものに譲渡し、またほ転貸することを土地所有者が承諾したときは、土地所有者

が、そのときに普通借地権を設定したものとみなすものとしております。そして「譲波の

自由が確保されている地上権たる借地権については、このような規制をすることができな

い。そこで、地上権たる借地権は、短期型定期借地権とすることができないとすることが

考えられるが、この点については、地上権たる借地権の例が少ないこともあり、なお検討

することとしている」としていますが、私見では短期型定期借地権は賃借権に限ると解し

ますから、この試案の説明のこの問題はクリアされることになります。つまり短期型定期

借地権は純枠債権としての賃借権として、当事者の契約の自由を尊重していくべきである

と考えます。

 もっとも法人てない者が買受人になるときは借地法九条ノ三の規定を適用しませんが、

あらかじめ賃貸人の承諾をとりつけ、登記があれは短期型定期借地権を抵当権の目的とし

て、抵当権の実行により法人でない者か取得してしまうことが可能である。しかし、その

場合に、抵当権の実行としての競売の場合には、買い受けの申出をすることができるのは

法人に限るべきである。これには民事執行規則三三条を使えばよいという山野目さんの考

え方に賛同します。

 建物買取型定期借地権の場合には、これは地上権、賃借権どちらでもいいんてすが、賃

借権が通常であろう。私はこの場合には公正証書による設定ではなくて、土地所有者が建

物についての売買契約上の権利を第三者に対抗するために所有権移転請求権仮登記をする

のですから、この仮登記を効力発生要件とすべきであると考えます。それによって、登記

による公示という点も満たすわけです。

司会(吉田) 最後に、文教大学の石用信氏から、「借地上の建物賃貸借」をめぐる問題

 についてご報告をいただきます。とりわけ期間満了に伴う借家権保護の問題に焦点を当

 てていただくことになります。

定期借地権の建物賃貸借:石川信(文教大学)

 定期借地権制度の創設の是非を検討していこうとする場合に、期間満了に伴う借地上建

物の賃借人の処遇ないし借家権の保護をどう考えるかという問題は、きわめて重要な論点

と思われます。この問題は、「更地返還」を望む地主側の期待と、「建物の継続利用」を

願う利用者側の期待をどう調整するかということでもあります。新規借地が供給されなが

らも、建物が効率よく利用され、居住利益をも保護されるような制度ができれば一番好ま

しいことになります。

 この期間満了と借家権の関係については、地主側をはじめ各界の意見としては、借地権

消滅に伴って借家権も消滅すべきであるという考え方が多いようです。しかし私は逆に、

定期借地権制度を、借地権消滅がなされたとしても借家権は存続していく制度と理解して

、今後具体的な規定を考えていく必要があるのではないかと考えています。新規の借地供

給の可能性を追求するあまりに、地主の更地返還の期待を常に優先させて、土地利用関係

の最終的な需要者である借家人の保護を軽視してはならないと考えています。

 借家権の保護が十分でないと、今後ますます土地利用紛争が激化していくでしょうし、

具体的に言えば長期型においては建物のスラム化という現象、ないし地主の収益性の低下

という現象あるいは短期型においては制度の濫用という問題が生じ、それを防ぐことがで

きないのではないでしょうか。あるいはへ先ほどからしばしばご指摘があったように、イ

ギリスにおいて、借地人に底地の買取請求権を付与する立法がなされてしまったという動

きが、日本ても起きかねないのではないかと思われます。

 このようにして、一般論として、定期借地権制度を、「借地権は消滅するが、借家権は

残る」と考える以上、借家権ないし借家人の保護も善意の借家人に限る必要はないと思い

ます。悪意の借家人も含めて考えて差し支えないはずです。つまり、建物の存続あるいは

利用権の継続の必要性は、定期借地権てあることの知、不知にはかかわらないだろうと思

えるからです。もちろん、いたずらに土地の所有者を困らせようという背信的な悪意者や

、害意者の場合には、別個の法理で正当な借家人でないということで排除されることがあ

ってもよいでしょうが。

 また、借家人保護の必要性は、借家関係が地主との間に承継されるという側面だけでな

く、その地主=家主と借家人の関係においても、相変わらず配慮されなけれはならないこ

とだと思われます。すなわち借家関係を終了するにあたり、正当事由の判断において、従

前の定期借地という事情、法廷借家という事情ないし引き継がれた借家権という事情など

が考慮されて、結果として用意に借家契約の更新拒絶が認められてしまい、結局は出てい

かなければならないという事態を防ぎたいと思うのです。

 このような借家権の保護の考え方は、現行法上の判例の考え方からも、必ずしも大きく

逸脱していないと思えます。判例の考え方を総合的に判断するならば、今後特に都市部で

利用されることが考えられる賃貸業務型の定期借地の場合には、借家人の事情を考慮した

うえでその借家権を保護することは、判例解釈上からも十分に可能なことではないかと思

えます。結局、定期借地権においては、長期型、短期型を問わず、また借家人が善意であ

るか悪意であるかを問わず、借地契約の期間満了によって建物を地主に帰属させ、借家関

係を承継させたうえで解約申入れ、または更新拒絶について正当事由の判断に委ねる。そ

してその場合に、定期借地期間が満了したという事情は特別に考慮しないと考えたいので

す。

 今回の「要綱試案」についての私の考えをまとめておきます。まず、買収型について言

えば、このタイプは借家人の保護が前提として考えられていますので、定期借地権の中核

となるタイプと理解したい。ただその場合に、「試案」のように期間の定めのない借家契

約として存続していくというよりは、二年ないし三年の有期の期間を保障するほうがよい

のではないかと思えます。

 また、借家契約の排除特約は認められないと考えます。借家権の終了は、あくまでも正

当事由の判断に委ねたいからです。

 さらに買収型のなかには、生涯型もありますが、生涯型についても借家権を保護する必

要があります。借家人あるいは建物を利用している人が現実にいることを保護していく

いうことでは同じだからです。ですから、生涯型であっても、区別する理由はありません。

 長期型について、「要綱試案」に即して私の考えを述べれは、建物買取請求権の排除特

約は有効としてもよいと思いますが、建物利用者がいる場合、無償でその建物が地主に帰

属するという関係にしたらどうでしょうか。利用者が、建物の使用収益権をそのまま継続

していくわけです。もし借家人がいるとなれは、従前の借家契約の内容が、そのまま引き

継がれることになります。ただ新しく家主になった地主の予定していた分と収益分との間

にかなりの誤差がありうるようでしたら、それは損害賠償というかたちでもとの家主に請

求することがあってよいでしょう。

 短期型についても、およそ同じです。建物買取型請求権排除特約は有効としましても、

その建物を利用する立場のものがいるならば、無償で建物所有権が地主に帰属します。た

だ地主としては、この短期型はきわめて特殊な建物に利用されることが考えられるという

こともありますので、地主に所有権が帰属して、自分で使うわけにもいかないかもしれま

せん。そこで地主としては、建物を取去する費用については、もとの家主に負担してもら

うことが考えられてもいいかもしれません。

 さて、最後の問題は、定期借地権を借地権は終了しても借家権は残っていくという制度

にするとしますと、更地で返還するのでなければ新しく土地を提供する気がないという地

主の批判にどのように応えていくかということです。ポイントは、地主としても今後の土

地利用について考えれば、更地返還の期待をもつべきではないのではないかと思います。

土地は、利用されてこそ意味があるものです。土地所有者は、特に都市部では建物を建築

して提供するという、強い社会的な義務があるのではないかと思えます。それをたまたま

定期借地人に委託していたわけですから、その定期借地期間が満了したとしても、その建

物を壊して、更地で取り戻すことを期待するいわれはないのではないかと考えます。こう

いったことを、しはらく長い時間をかけてでも、地主の意識を変えていく、説得していく

必要があるのではないかと思えます。そういう説得をしないまま、中途半端なかたちで制

度化することは、かなり問題だと考えています。

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