●「机上査定」と「訪問査定」とは?
不動産の査定の際に顧客から「なぜ無料なのですか」と念押しで聞かれることがときどきあります。それは査定を依頼される方が、不動産の金額を
出すことができるのは不動産鑑定士だけができるものであるということからそう考えておられるのかもしれません。不動産鑑定士に不動産の価格を
出してもらうためには鑑定料を支払わなければなりません。戸建て住宅1件あたり15〜20万円の費用がかかると云われています。
裁判所の競売物件等を見てみますと、競売にかけられている土地や建物について何故、この価格で売りに出されているのかという根拠を詳細に示した
書類を見ることができます。アナログな時代であればこの裁判所の競売物件の閲覧も裁判所に直接出向いて行わなければならなかったのが、今の時代
自宅等のパソコンから即座に見ることができるようになったわけです。これもインターネット社会になったからこその大きなメリットといえましょう。
そこでは不動産鑑定士によるあらゆる角度から不動産を調査した結果としての価格が出されています。この価格は「最低売却価格」と云われていて、
必ずしもこの価格で落札(複数の方が競売に参加されて一番高い金額を出された方が買えることになります)できるわけではありません。
不動産の価格を出す際に、不動産鑑定士の方がかなりの時間と多くの資料と専門知識を基に作成して出されるのが「不動産鑑定価格」と云われるものです。
ですから信頼性は極めて高いもので、裁判所の他、企業間の不動産の売買、遺産相続の際に税務署に出す不動産の価格判定、離婚の際の財産分割による評
価額等に利用されると云われています。
なぜこのようなことを述べているかと云えば、本来、不動産の査定又は鑑定というものは井戸端会議等の場で軽い感じでやりとりされるものではないと思
うからです。「不動産の一括査定屋さん」のサイトがインターネット上に頻繁に出てくるようになってから特に感じるのですが、何千万もの価値がある不
動産の価格について軽いノリで聞いて来られる方が増えてきています。私の場合「不動産の一括査定屋さん」のサイトを介して、不動産の価格を査定され
る方の9割以上(私の場合は97〜98%に思えます)がその場で、又は数時間後にメールや口頭で「価格だけをザックリと教えてくれ」といったものが殆
どです。数日後にきちんとした査定書類を送るのですが、その後のやり取りに発展していったケースは稀で「その場限り」が殆どと云っていいでしょう。
何千万もする価格としてこれほど大きく重みのあるものはなく、人の人生で一度あるかないかわからない不動産の売却の際の価格を知りたい方達がコンビ
ニ等で売られている商品感覚で不動産の価格を尋ねてこられる。デジタル時代の利便さの裏側の弊害と云ってもいいでしょう。
ですから「不動産の一括査定屋さん」のサイトを通じて査定依頼をされる方の9割以上(私の場合は97〜98%)は「訪問査定」ではなく「机上査定」を
選択してこられます。
「机上査定」とは通常、簡易なといってもいい査定の方法です。土地建物がある現地に行っての確認までする必要はなく、今のデジタル時代ですから事務
所のパソコンの前でヤフーやゼンリンの地図を開いて土地や建物の所在のみならず道路幅や土地の形状、間口、奥行きまでもそれこそザックリと確認し、
可視的には建物を立体的にまでチェックできるのですからデジタルの凄さを感じることができます。
査定を依頼する方の殆どが「机上査定」の為、近所の方や家族にも知られたくないという秘密主義的な要望が多く、査定を行う不動産業者も現地で堂々と
道路幅や土地の間口や奥行きをを測ったりとかの調査活動も充分に行うことも難しい部分があります。土地についてもこういう状況ですから、建物につい
ては尚更です。建物の内部は当然のことながら目視で見ることはできず、外側も写真で撮るくらいがせいぜいです。築年数の経った中古住宅の場合は、建
物外部の経年劣化も至る所に見受けられて当然でしょうが、それすらも確認することが難しい状況では「机上査定」は極めて大雑把な査定になるのは致し
方のないことです。
それに対して「訪問査定」を選ばれれば、不動産鑑定士ほどの綿密緻密な作業をすることはありませんが、やはり市役所や法務局や水道局等の役所を回って
資料閲覧をしたり、土地建物の在る現地に出向いて許せる範囲内での目視を行って価格査定の根拠になるデータ等を集めます。そして現地に赴いての査定作
業ができるわけですから、査定依頼者との対話もできるので、新築してからの土地や建物の歴史を教えてもらうこともできます。
パソコンでも確認できていた土地の形状の他、間口や奥行きの確認、前面道路の正確な幅員や種類(公道又は私道)、道路と敷地の高低差や隣地との境界杭の
確認や近隣との相隣関係等、建物については瑕疵と云われる建物の中の雨漏り跡や、床や柱等の劣化状況、建物のゆがみや傾き、建物全体のグレードの判定、
使用されている材料・部材・流し台や洗面化粧台、浴槽、便器等の水回り設備のレベル・グレード等、さらには目視でも被害程度がひどければシロアリ被害
の状況の確認もできます。
本来の建物チェツクは1級建築士により数時間をかけて建物の内外部を専門の機械等も使いながらチェックしていき、それを「建物の状況調査結果書」として
出していくことになります。これを通常、建物インスペクションと呼んでいます。それは土地建物の契約書につけられる「重要事項説明書」に平成30年4月
以降は、建物のインスペクションについての記載が義務付けられることになりました。
これらの地道な作業に基づいて出されるのが「訪問査定」の大きなメリットです。簡易な「机上査定」とは雲泥の差があります。本来ならば不動産の売却価格を
出す為の「査定」とは売主が隠しておきたい、できれば云いたくない伏せておきたいような内容である不動産の「負」の部分、目視ではなかなかわからない土地
建物の瑕疵部分(以前建物でボヤがあったとか、白蟻被害があったとか、過去に修復した雨漏り箇所とか、地中に鋼やブロック等の残材が埋まっているとか、隣地
と境界揉めが続いているとか、さらには「告知書」なるものを売主になる方から記載してもらって、心理的な瑕疵にもなる建物内での親族の自殺や他殺、近隣に暴
力団施設があるとか)も確認できることにもなります。
経験を積んだベテランの不動産業者が行う不動産の査定とはこのように緻密に時間をかけて普通行われるものです。不動産一括査定屋さんを通じて行われる「机上
査定」で行われる表面的なザックリとした皮相的な査定とは大きく違います。不動産は普通の商品と違って、個性が強くひとつひとつに違いがあるため必ず現地、
現物を自分の目で見るのが不動産業界における昔からの鉄則と云われています。
そういう不動産の大きな特徴を無視したわけではないのでしょうが、簡単でその場でできる「机上査定」なるものが跋扈してきて時間のかかる「ややこしい訪問査定」
はダメということになるのでしょう。多くがインターネット化してデジタルな時代になった今、不動産の査定も「簡易簡便な机上査定」で行うことは時間的にも簡単に
できるようになっています。物件の所在確認もヤフーやグーグル、ゼンリン地図等で立体的に可視化して行うこともできます。
土地の路線価格、地価公示価格、建物では年次ごとの建築標準単価等も即座に見ることができます。ですからこれらの指標になる資料を査定依頼者が見て、自分なりの
判断をすることも可能になっています。このように書いていくと恐らく近い将来は間違いなくAI時代になれは゛、不動産の査定価格もAIが即座に教えてくれる時代
がすぐそこまでやって来ていると云ってもいいでしょう。私のホームページにもAIによる不動産査定をリンクしていますが、AIが正確に確実に不動産の査定を行え
るようになる為には、土地にしてみてもAI自体のデータ化(全国各地域ごとの土地の基礎データ(路線価格、地価公示価格、固定資産評価額等)をはじめ)がもっと
もっと進まないことには「簡易な机上査定」の域を超えることはないでしょう。
事実、弊社が所属している熊本県宅地建物取引業協会には不動産業者が1500社以上加盟して日々、不動産取引業務を行っております。その中で「不動産一括査定屋さ
ん」サイトを利用している業者の数は僅か1%弱程度に見受けられます。完全歩合給の営業マンをたくさん抱え込んでとにかく1件でも多くの不動産査定を行って売却の
媒介契約を増やさなければならない必要に迫られている業者さんが名を連ねているようです。
次は●クルマの査定と不動産の査定の根本的な違い