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相手方の不法行為により損害を蒙った場合の損害賠償請求についてお尋ねします。

不動産の取引をしている者ですが、地主の依頼により事業用借地による土地の有効活用をしたいということで地主の土地に「貸地」の看板を設置してテナントの誘致を図っていました。いろいろと引き合いが有ったのですが、なかなか条件などが折り合わず契約にまでは至っていなかったのですが、問い合せのあったうちのひとつの会社が当社を通さずに直接、地主にところに赴き建物の請負契約を締結してしまいました。地主からの連絡で初めて知ったのですが、こういう行為は不動産業界では通常「抜き行為」といわれています。不景気になると少しでも利益を出したいということで、このような行為をする会社が出てくるのでしょうが、どうも納得がいきません。どうしたらいいでしょうか?

回答

不動産の売買では売主と仲介業者の間で専任契約等を結び、売主が直接,買主を見つけたりした場合などのケースに専任契約による業者の報酬請求権を保護するなどの措置もとられていますが、上記のケースは地主とのトラブルではなく、あなたを通さずに勝手に建物の請負契約をしてしまった建設会社が本来あなたが取得するであろう報酬を奪い去ったというところにポイントがあると思います。

通常、不法行為(民法709条)の要件は、相手方の故意または過失による行為で他人に損害が発生したときに、相手方に対して損害賠償の請求をする権利が同時に発生するものです。判例付きの六法全書をみると「民法709条」にかんする判例は無数にありますし、と゛の判例が果たして妥当するものか迷ってしまいそうです。

しかし、不法行為の一般的成立要件を簡単に分類すると以下のようになります

T.故意・過失

故意とは、自己の行為により権利侵害の結果が発生することを認識し、かつ認容する心理状態をいい、過失とは、自己の行為により権利侵害の結果が発生することを認識すべきであるのに不注意のためその結果発生を認識しないで行為する心理状態をいうとされています。不注意とは,注意義務に違反することであり,注意義務は一般標準人を基準とするものとされています。

2.違法性

民法709条にいう「権利の侵害」に対して,判例・通説は法律上保護に値する利益を違法に侵害することをいうとされています。即ち、不法行為の成立要件としては、「権利侵害」の有無という形ではなく、当該行為が違法といえるか否かで判断すべきとされています。

3.因果関係

加害行為と損害発生との間に因果関係が無ければ、不法行為責任は生じませんし、その因果関係は相当因果関係で足りるとされています。

4.損害の発生

原則として現実的な損害の発生を必要とします。この点に関して、損害の発生ないし損害額の未確定のうちに損害賠償請求が認められるかとの問題がありますが、判例は損害額の未確定の内にする損害賠償請求を認めているとされています。損害は財産的損害に限らず,精神的損害も含まれます(民法710条)。

次に会社等を相手取って損害賠償請求をする際に注意しなければならないのは,使用者責任の問題があります。

これは、他人に使用されている者が、その事業の執行について第三者に違法な損害を加えた場合、使用者又はこれに変わる代理監督者も損害を賠償する責任を負います(民法715-1.2)。ただし、この場合、選任・監督につき相当の注意をした時、又は相当の注意をしても損害が生じたであろう時は,責任を免れるとされています(民法715条但書)。

使用者責任が認められると、使用者または代理監督者は第三者に損害賠償をしなければなりません。そして使用者は被用者に対して求償出来ることになっています。(民法715−3

損害賠償請求権の消滅時効は、被害者またはその法定代理人が損害及び加害者を知ったときから3年間行使しなければ、時効によって消滅することになっています。(民法724

以上、ざつと不法行為の要件を記しましたが、まづは相手方である会社の営業社員と責任者と会って話し合いを持つことが大事です。世の中には必ずしも悪意を以って行為をしていないこともありますし、いきなり訴訟に持ち込んでかえって感情の対立を招くこともあるからです。何度か話し合いを持ったにもかかわらず相手方が何等反省の態度を示さず、自分の行った行為を当然の行為として考えているようであれは゛、やはり問題です。そのとき、はじめて相手方である会社の営業社員および会社を被告として損害賠償請求の訴えを裁判所に起こす必要がでてきます。

訴訟の起こし方は、必ずしも訴訟代理人を立てることはなく被害者である本人自身で訴状を作成して管轄の裁判所に提出することもできます。訴訟額が90万円を超えるかどうかで管轄が簡易裁判所か地方裁判所になります。もし自分で訴状を作成してみたいということであれば、法律の書式集等を購入されて作成されてはいかがですか。訴状の要件としては1.当事者及び法定代理人2.請求の趣旨及び原因 となっています。訴状には上記の必要的記載事項のほか、請求を理由づける事実を具体的に記載し,かつ,立証を要する事由ごとに,その事実に関連する事実で重要なもの及び証拠を記載しなければならないことになっています。証拠は人、物、書類なんでも証拠になります。

訴状の提出があると、その記載内容について必要的記載事項の有無につき審査が行われ,却下されなければ被告である相手方に副本が送達され、これにて訴訟係属が生じます。そして、裁判長が口頭弁論期日を定めて,当事者を呼び出すことになります。

いづれにしても最終的に自分を守るのは自分自身ですから、降りかかってきた火の粉は自分で振り払わなければなりません。一時の感情に任せて興奮して、声を荒げて相手方に怒鳴り込んでいくのもひとつの方法かもしれませんが、それはかえってマイナスのように私は思います。ここはひとつ熟慮して相手方とじっくり話し合い、そのなかから相手方の違法行為を見つけ出すことも重要なことだと思います。自由競争の社会だからといって取られ損ではかないません。不動産仲介を仕事とする以上、ふだんから自分の発信した情報の管理を十分に行っておくことが極めて大切だと思います。国家でも、企業でも、個人でも危機管理をベースとした情報管理をキチンと行っていれば、仮に情報を盗まれて自分の知らないところで取引がされようとも、情報を辿っていくことさえできれば相手方に違法な行為を認めさせ、最終的には損害賠償さえ可能になります。

訴訟は最終手段ですが、いつでもスクランブル態勢は整えておかなければなりません。