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当社で発生いたしました不動産取引における不法行為に該当するであろう事例につき、媒介報酬或いは損害賠償の請求に値するものであるかどうかのご教示を賜りたくご相談いたします。内容は以下の通りです。当社をA社としてあります。

関係する人物等

N氏 アパート、マンションを経営する資産家の中年女性

Y氏 某一流企業に勤める30代のサラリーマン

A社 土地、建物の仲介を主に行っている不動産業者

B社 アパート、マンションの賃貸の仲介を中心とする不動産業者

C社 建売業と仲介を兼営する不動産業者

M社 ハウスメーカー

M氏 ハウスメーカー営業社員

 A社は平成11年3月18日、M市に土地を所有するN氏に対し、土地を売却しませんかとの話を持ちかけ、土地売却の媒介の営業活動を開始した。何回かの交渉の後、平成12年8月23日、売買価格3300万円(土地面積は約30坪)で一般媒介にて売却するとの約束を得た。A社は平成12年8月28日レインズに一般媒介として登録した。A社に対しレインズを通じ50社以上の業者より問い合わせがあり、販売図面を送付した。これにより本件土地が売却物件であることが業者間に知れ渡り、客付業者は営業活動を行うこととなった。又、N氏はこの土地を駐車場として賃貸しており、その管理会社B社にも一般媒介としてこの土地を売却委任した。

平成13年3月8日、M社のM氏よりA社に対し資料請求があり、販売図面、測量図、公図を送付した。平成13年3月20日、M氏は土地の購入希望者であるY氏を伴ってA社に来社し、土地の購入希望をA社に伝えた。Y氏はM社に本件土地に建物を建てた場合の見積もりを依頼し、M社は見積もりの為、土地の地盤調査をしたいのでN氏の承諾を得るようA社に依頼したので、A社はN氏の了解を得てM社は地盤調査を実施した。その後M社はハウスメーカーの為、仲介業務には介入せず、Y氏とA社は直接交渉を開始した。Y氏からは買い付けが入った(2850万円)が売主N氏の希望価格には届かず、交渉は不成立となった。その後もY氏の買いたい希望もあり、A社は何回かY氏、N氏との間に入り交渉したが話はまとまらず平成13年12月13日売主N氏は物件価格3000万円(内、約100万円は仲介手数料)ならば売っても良いが、それ以下ならば売ら

なくとも良いというほぼ最終的な返答を得た。そこでA社は平成13年12月16日Y氏に対し、売主N氏の意向は、土地価格3000万円であるので3000

万円で、買って頂けるかどうか検討のうえ返事を頂きたいと伝えたが返事はなかった。その後A社は売主N氏に確認するとすでに売買契約を結んでいるとの話だった。話の様子から買主はA社において交渉中であったY氏であることが判明した。売主N氏の釈明によると一般媒介であるのでどこの業者に依頼しても良いことになっており、C社より直接連絡があり、交渉に応じたことについて、何らやましいことはないとの認識であった。

◯その後のいきさつ。

A社がY氏に最後に接触して以降、Y氏は売主N氏が売却委任しているA社、B社ではなく、まったくN氏と関係のない不動産業者C社に行き、N氏の土地の購入を依頼した。

C社は売主N氏、買主Y氏との間に入りY氏の希望に添い、次のような売買条件を売主N氏に提案した。売買価格は2900万円とする。但し、仲介手数料は頂かない。C社は買主Y氏より手数料を頂く。売主N氏はA社に話した売却価格3000万円(手数料はほぼ100万円)の時と手取額(2900万円)は同じであり、売却を承諾した。買主Y氏にとっては支払い手数料はほぼ同じであるが売買価格が2900万円となった為、約100万円安く本件土地を購入することができた。

買主Y氏の心づもりは、A社では仲介料の大幅な値引きは無理なので如何なる方法で仲介手数料を安くするかを画策し、C社に依頼したものであろう。C社にとっては正に棚からぼた餅、渡りに船、仲介経費は少なく、媒介契約獲得の営業活動無しの安いコストで仲介手数料が入るのであり、手数料を半値に値引きしても十分採算は取れることとなる。

本件不動産取引における問題点                      

1.本件においては媒介交渉の大半をA社で行い、契約直前においてA社を除外  し、C社が直接、売主N氏と交渉を行い契約を結ぶのは、いわゆるA社を抜  いた不法な「抜き行為」であり、A社に媒介報酬請求権は発生しないのか。

すなわちY氏、N氏はA社に仲介手数料の支払い義務が生じるか、否か。

N氏、Y氏の言い分は一般媒介であるので、宅地建物取引業法の通り、複数  の不動産会社に依頼しても良い、との考えであろうが仲介手数料を安くする  目的で、同一物件、同一売主、同一買主において、一媒介業者の元で交渉進  行中であり、委任の履行に着手後、委任についての合意の解除がなされない  まま、全く関係のない第三者の不動産会社に、秩序なく媒介交渉を依頼する  のは不法行為に当らないか。       

2.C社についてはA社、B社が元付媒介業者であり、A社においてはレインズ  に登録している物件である。このことについて、C社は物件のレインズ登録  を検索しなくとも、Y氏の話の内容よりレインズ登録物件であることは容易  に知ることが出来たはずであり、又、知っていたであろう。

これは東日本不動産流通機構の規定に違反するものであり、C社は本件不動  産取引の媒介を、依頼されても断るのが合法的措置ではないか。

 C社はすでに仲介手数料を受領済みであるが、この仲介手数料なる金銭は、  Y氏がC社に支払った単なる謝礼ではないか。真の仲介手数料の受領権利者  はA社ではないでしょうか。                

大田宅建事務所返信

 全国宅地建物取引業協会連合会製の一般媒介契約書第11条(直接取引)においては「一般媒介契約の有効期間内又は有効期間の満了後3年以内に、甲が乙の紹介によって知った相手方と乙を排除して目的物件の売買又は交換の契約を締結したときは、乙は、甲に対して,契約の成立に寄与した割合に応じた相当額の報酬を請求する事が出来ます」と記載されており、さらに専属専任媒介契約書第11条(直接取引)においても「専属専任媒介契約の有効期間の満了後2年以内に、甲が乙の紹介によって知った相手方と乙を排除して目的物件の売買又は交換の契約を締結したときは、乙は、甲に対して,契約の成立に寄与した割合に応じた相当額の報酬を請求する事が出来ます」との記載があり、どちらの契約もほぼ同じですが、一般媒介契約の第12条(費用償還の請求)専属専任媒介契約の第12条(違約金の請求)もそれぞれ約定報酬額を超えないか、または約定報酬額に相当する額を請求する事が出来る旨書かれています。

 貴社のケースにおいて売主N氏の釈明によると一般媒介契約であるのでどこの業者に依頼しても良いことになっており、C社より直接連絡があり、交渉に応じたことについて何等やましいことはないとの認識であった・・・とありますが、どこの業者に依頼しても良いケースとはN氏が貴社の紹介により知りえたY氏以外の買主であっての話であって、N氏としてはC社より紹介された買主がY氏であることがわかったときに、速やかにY氏はA社(貴社)からすでに紹介を受けた者であることを云わねばならなかったにもかかわらず、それを一般媒介契約であるのでどこの業者に依頼しても良いことになっていると押し通しつづけることの無理があります。Y氏なる人物をC社より始めて紹介されたと主張する事など貴社の前ではできっこないでしょうから、不法行為の一般的成立要件である故意・過失がないとすることにはかなりの無理があるものと思われます。

不法行為の一般的成立要件を簡単に分類すると以下のようになります。

T.故意・過失

故意とは、自己の行為により権利侵害の結果が発生することを認識し、かつ認容する心理状態をいい、過失とは、自己の行為により権利侵害の結果が発生することを認識すべきであるのに不注意のためその結果発生を認識しないで行為する心理状態をいうとされています。不注意とは,注意義務に違反することであり,注意義務は一般標準人を基準とするものとされています。

2.違法性

民法709条にいう「権利の侵害」に対して,判例・通説は法律上保護に値する利益を違法に侵害することをいうとされています。即ち、不法行為の成立要件としては、「権利侵害」の有無という形ではなく、当該行為が違法といえるか否かで判断すべきとされています。

3.因果関係

加害行為と損害発生との間に因果関係が無ければ、不法行為責任は生じませんし、その因果関係は相当因果関係で足りるとされています。

4.損害の発生

原則として現実的な損害の発生を必要とします。この点に関して、損害の発生ないし損害額の未確定のうちに損害賠償請求が認められるかとの問題がありますが、判例は損害額の未確定の内にする損害賠償請求を認めているとされています。損害は財産的損害に限らず,精神的損害も含まれます(民法710条)。

さらに仲介手数料の支払を免れるために、売買当事者が故意に業者を除外すれば、民法130条によって、仲介業者は、約定報酬を請求できます。

130条  条件ノ成就ニ因リテ不利益ヲ受クヘキ当事者カ故意ニ其条件ノ成就ヲ妨ケタルトキハ相手方ハ其条件ヲ成就シタルモノト看做スコトヲ得

下記はホームページに掲載している不動産主要判例のひとつですが参考にして下さい。

昭和39年7月16日 最高裁第一小法廷 判決

 原判決は本件売買契約が被上告人らの上告人らに対する仲介依頼の正当に解除された後、直接取引により成立したものであることを認定し、上告人らに於て右売買の端緒を与えたとしても、その程度の斡旋行為ではまだ本人間の直接取引による本件売買契約成立について因果関係が存するとはいえない旨を判示しているのであつて、その認定する右事実関係の下に於ては右判断は正当であり、原判決には所論違法の点は認められない。

 原判決は本件仲介依頼の解除は被上告人らに於て故意に上告人らを除外する目的でなされたものでなく、また前記に説示したような経緯によつて判示の如き当事者間直接の売買契約が成立し、右仲介依頼に関しては報酬金についての特約がなかつた旨を認定しており、その認定は原判決挙示の証拠により首肯できないことはない。

 そして、かかる事実関係の下においては仲介人たる上告人らが報酬金を請求しうる社会の一般取引観念を認め得ないとした原判決の判断は、肯認できないことはなく、所論経験則違反の違法は認められず、従つて所論信義則違反の主張を容認しなかつたからといつて、原判決には理由不備又は理由そごの違法はない。

http://www.ootaku.com/fudousanhanrei14.html

商人がその営業の範囲内で他人のためにある行為をしたときは、報酬を支払うという約束がなくても、相当額の報酬を請求できます。宅地建物取引業を営む者は商人です。宅建業者が、不動産の売買契約を成立させるため、買主を現場に案内し、契約の締結に立ち会い、売買代金額について売主、買主の両者の言い分を調整して、両者をして買主の希望価額以下に合意させ、目的物の受渡、代金の授受に関与した場合には、買主との間に明示の売買の媒介契約がされなかつたとしても、黙示の媒介契約がされたものと解することができ、宅建業者=商人は、商法第512条により、買主に対し、不動産売買の媒介の報酬を請求することができます。また、買主から不動産売買の媒介の依頼を受けた仲介人が数人あるときは、各仲介人は、特段の事情のないかぎり、売買の媒介に尽力した度合に応じて、報酬額を按分して、買主に対し請求することができます。

商法第512条〔報酬請求権〕

商人か其営業の範囲内に於て他人の為めに或行為を為したるときは相当の報酬を請求することを得

最高裁判所第3小法廷 判決 昭和43年4月2日

被上告人は宅地建物取引業を営む商人であるが、上告人(買主)と清兵衛(売主)との間に本件不動産について売買契約を成立させるため、上告人を現場に案内し、売買代金額については、売主側金2500万円、買主側金2000万円以下の言い分を調整して、結局金1700万円と合意させ、売買契約に立ち会い、売買契約書には被上告人の用意した用紙を使わせ、被上告人が媒介者として記名捺印し、売買不動産の受渡し、代金の授受、登記申請書類のとり揃えは、被上告人の関与の下に行なわれ、その仲介の労も主として上告人の側に立つて、その利益のためにされたものであり、このことを上告人は取引交渉の経過中に知ることができたものであることは、原審が適法に認定したところであり、売買契約は昭和33年11月3日にされ、その履行が同年12月15日完了したことは、当事者間に争いない事実として、原審の確定したところである。

そうとすれば、被上告人と上告人との間には本件不動産売買について明示の媒介契約はされなかつたが、報酬額について定めのない黙示の媒介契約がおそくとも売買成立のときまでにされたと解すべきである。

 ところで、商法512条は、商人がその営業の範囲内の行為をすることを委託されて、その行為をした場合において、その委託契約に報酬についての定めがないときは、商人は委託者に対し相当の報酬を請求できるという趣旨に解すベきであるから、前記説示に照らし、被上告人は、上告人に対し、本件不動産売買の媒介のための報酬を請求できるといわなければならない。

したがつて、原判決は結論において相当であり、所論の違法はない。

買主から依頼を受けた仲介人が数人ある場合には、各自は特約等特段の事情のないかぎり、売買の媒介に尽力した度合に応じて、報酬額を按分して請求できるものと解するを相当とするところ、原審は、この基準により、被上告人の上告人に対する本件不動産売買の媒介報酬額を金25万円と認定したものであり、この認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できる。

原判決には所論の違法はない。

 http://www.ootaku.com/fudousanhanrei36.htm

貴社からのメールを拝見致しましても、N氏は仲介手数料の100万円、Y氏は売買価格の100万円、C社は棚からぼた餅の100万円とそれぞれが金100万円において共通利害があり、N氏、Y氏、C社がお互いの利益のために貴社を仲介からはずしたことは状況的に見て明らかですし、N氏、Y氏、C社の三者はきちんとした証拠を揃えて゛抜き行為゛でないという事を証明しなければなりません。私も゛抜き行為゛に関する判例を探したことがありますが見つかりませんでした。県内外の不動産業者の方にもメールでそのような判例をご存知の方がおればと思い、メールの返事を待っていましたがメールは来ませんでした。

 貴社のケースで、不法行為による損害賠償請求訴訟を起こした場合、訴訟が却下されずに繋属されるかについては弁護士さんの意見に待たねばならないと思いますが、相手方であるN氏、Y氏、C社が不誠実な態度を取りつづけるのであれは゛最終手段として訴訟提起に踏み切ることも視野に入れて交渉していかねばならないと思います。ここはひとつ熟慮して相手方とじっくり話し合い、そのなかから相手方の違法行為を見つけ出すことも重要なことだと思います。自由競争の社会だからといって取られ損ではかないません。不動産仲介を仕事とする以上、ふだんから自分の発信した情報の管理を十分に行っておくことが極めて大切だと思います。国家でも、企業でも、個人でも危機管理をベースとした情報管理をキチンと行っていれば、仮に情報を盗まれて自分の知らないところで取引がされようとも、情報を辿っていくことさえできれば相手方に違法な行為を認めさせ、最終的には損害賠償さえ可能になります。

訴訟は最終手段ですが、いつでもスクランブル態勢は整えておかなければなりません。

 最後になりますが私自身も業者による抜き行為に会ったときに相手方に対して訴訟の準備もしたこともあります。結果として相手方が顧客を巻き込んでの紛争がいやだったのでしょう。訴訟提起にまで至らず相手方が和解をしてきたのでそれで合意いたしました。