素地価格の定義

一般個人が売りに出す小規模な土地はせいぜい住宅が一軒ないしは2軒位が建つ程度の広さである。それに比べて住宅が数十軒程建つ土地とは、所謂「開発許可」を必要とする(原則どの都道府県も1000㎡を超える市街化区域内にある土地の造成には行政による開発許可を必要とする)ものである。
 1~2区画の小規模な土地も、開発許可を受けて造られた土地の中の一つの土地も、完成した宅地という面で見ると、基本原則としてみた場合は土地の各条件が殆ど同一と見ても構わないといえる。
 しかし、現状のままではまだ殆ど住宅の建築という面から見たときに、宅地としての要素が多く備わっていない土地の場合の価格の出し方は原始的な価格というか、素材・原材料としての価格にしか過ぎないと云っていいかもしれない。工業製品でいう製品になる前の原材料に対応するのが、不動産の素地価格の対象と云われる農地や山林であるという類推がピッタリとくる。
この素材としての農地や山林状態の土地の価格を通常「素地価格」という呼び方で、不動産の鑑定等に専門的に携わる不動産鑑定士や、不動産の売買業務をメインにした不動産売買取引をする業者の間では云われている。

造成後更地価格と素地価格の関係

都それでは次に「造成後更地価格」と「素地価格」との関係を見ていくことにする。
宅地に転換する前の土地のことを通常「宅地見込地」と呼んでいるが、宅地見込地の土地価格を求める手法の一つとして開発法という手法がある。
 その手法は、宅地見込地である所謂、農地や山林等に宅地造成工事を行って分譲宅地を複数区画作るものである。出来上がった造成後の分譲宅地の価格を周辺の類似の住宅地の価格と比較して造成後更地価格を決めていく。
その造成後更地価格より、造成工事費、諸費用、宅地分譲業者の利益等の諸価格を控除して、宅造する前の宅地見込み地(農地や山林)の土地価格を算出するのである。
 所謂、宅地造成する前の原状のままの農地や山林等の土地価格を通常「素地価格」と云っている。
開発する土地の価格の求め方を簡単に記すと次のようになる。

造成後更地価格-(造成工事費+諸費用+利潤+リスク等)=素地価格
上記式をより簡略化すると   造成後更地価格-造成工事費=素地価格

【諸費用の内訳】

  • 測量、開発許可申請費用
  • 不動産取得税、固定資産税
  • 所有権移転や抵当権設定登記費用
  • 素地購入の際の不動産仲介手数料
  • 造成後各更地の水道加入金や下水道受益者負担金
  • 造成後各更地の販売費用(広告費用や仲介手数料)
  • 造成後各更地を完売するまでの銀行等への期間金利支払い
    等々の費用を要する

素地買付の際の注意ポイント

では次に実際に素地を買い求める際の注意ポイントを見てみよう!
現実の不動産市場を見てみると、現在のようにデジタル化した時代においては、売りに出ている土地の中で、広い農地や山林等の「素地」と云われる土地はポータルサイトの中でもごく少数にしか過ぎない。圧倒的に多いのは個人が売りに出している単発的な小規模な土地や既に完成した分譲宅地等が圧倒的に多いのが見て取れる。
 素地価格といわれる規模の大きい農地や山林等の土地のポータルサイト広告への掲載はごく少数に留まっているのが現状だ。何故ならば農地や山林等の分譲宅地向きの大きな土地は戸建住宅を考えている一般のエンドユーザー等には不適当であり、建売住宅用地を捜している建売住宅業者や開発向きの土地を捜している不動産業者等が一番の買手として考えられるからである。
 それではこれら素地価格と云われる規模の大きな農地や山林等を所有している地主と一番コンタクトを取っているのが誰かと云えば、不動産業者と云われる中でも仲介を一番の商いとしている「仲介不動産業者」である。
 不動産仲介業者の担当者が「素地価格」というものに詳しいのであれば、買手である開発業者や建売業者も適切な価格で農地や山林等を取得できるのであるが、現実はそうはいっていないと云っても良い。

素地価格の算定方法を知らない不動産業者が多い

素地所有者である地主は、自分が所有している土地の周辺に新規に開発された分譲宅地の価格動向には仲介の不動産業者以上に詳しいものである。大半の地主が所謂「素地価格」と「分譲宅地の完成地価格」の違いに理解を示しているのであるが、中には素地価格=完成宅地価格に近いものだと大きな誤解と混同をしておられる方も現実おられます。そこまで極端でなくとも土地の造成費用がどの程度かかるものなのかについて理解が殆ど至っていない方も多くおられるのが現実のようです。
 ですから素地価格がかなり高くなってしまい、それをそのままの価格で買ってしまうか、止む無く買ってしまう不動産業者等も現実いるわけで、そのように買われた素地価格の農地や山林がとてつもなく高い完成宅地として販売されているケースも時折見かけることもある。このような物件は地域バブルを発生させていると云ってもいい。周辺の宅地のみならず、素地価格の高騰を招くもので土地取引の悪例の見本のようなものである。
平成の初めに発生した不動産バブル時期にはこのような土地が全国至る所の市場にあまりにもたくさん出回っていたために、行政も全国一斉にバブル潰しということで「国土利用計画法」や「監視区域」等を使って土地が高騰しないようにするための法制度を使ってバブル潰しを図ったことも記憶に新しいが、現実は「バブル」は崩壊し、日本の不動産市場は「失われた10年、20年」という言葉に象徴されるような過酷な時代が長く続いたことは多くの人の記憶にいまだに留まっているといっても良い。
 それでは本題に入っていくことにする。

素地価格の決め方

自然のままの農地や山林を買う時の価格を「素地価格」とこれまで説明してきたが、では素地価格はどのようにして決まっていくのだろうか?
弊社の元にも、いろいろな仲介の不動産業者が「素地価格」物件を持ち寄ってくることが少々ある。又、デジタル時代の現代では各種のポータルサイトあたりにも、数こそそれほど多くはないが、「素地価格」物件が少なからずみられる。
 買受けする側の視点で見ていくとき、適切な価格で売りに出されている物件もあるものの、大半が゛何故゛この価格? と思いたくなるような物件がかなり多いことに気づくものである。
仲介の不動産業者が何故このような価格を設定して売りに出しているのかが明瞭にわかるような土地と、そうでない土地にはっきりと分かれているのが見てとれる。
先に述べたように、素地価格を決めていく際には、まず第一に「土地の造成費用」を概略的にせよ算出していかなければならない。
ここでは「土地の造成費用」の出し方を「道路減歩割合」の視点から考えてみることにする。
道路減歩割合とは別名、宅地有効化率と云ってもいい。わかりやすく例示的に述べてみることにする。
ここに1000坪程の土地がいくつかあるとする。
ひとつは整形地で、道路付けも良く、凹凸のない平坦な土地。もうひとつはかなりの変形地で、道路付けも悪く凹凸のある起伏の激しい土地とする。まづ行うのはこれら2つの大きな土地の区画割図を考えていく。「開発法規」で決められた各区画の最低面積、開発道路の幅員ゃ長さ、更には公園面積等を用紙の上に落とし込んでいく。これによって全体面積(1000坪)の中に占める道路面積の割合が出され、道路減歩の大きい土地であるか、そうでない土地であるかが判断できる。道路減歩率の大きな土地はそれだけでも造成コストの上昇にもつながるし、販売する宅地総面積の減少ともなるので開発コストの面から見たときに効率の悪い土地ともなる。
 次に、開発法規を守りながら各土地の区画割を行う。
区画土地に優良可を付けていくとすれば、まづ「優」が付けられる土地とは次のような土地である。土地の真ん中にドーンと一本、幅員の広い優良な道路が作られ、道路の両サイドに平均的な大きさの整形土地(正方形や長方形)が順序よく整然と並んでいく土地である。このような土地がベストと云えよう。
 それに比して、土地の中に一本の道路がドーンと付けられるものの、真ん中にではなく、土地のどちらかのサイドにしか道路が作られない土地である。このような土地は全体面積は十分な広さがあっても、形が少しいびつであったり(非整形地や辺長が不足している等々)することにより、どうしても開発で作られる道路の両サイドに平均的な大きさの整形土地を並べることができず、所謂、台形や菱形はては三角形、そして辺長のアンバランスな土地が多くを占めることがある。このような土地は極めて効率の悪い土地と云える。これらの区画土地が多くを占めるような土地では、完成宅地価格の総額アップを望めるどころか、売値をかなり安くしなければ売却が難しい土地になる可能性が大きい土地の為、素地価格の算出においてもかなりのハンディを含むことになる。
 又、開発する土地の総面積が一定面積を超える場合には、一定割合の公園や調整池を設けるなどしなければならない為、これらも素地価格を決めていく際の大きな要素ともなる。

素地状態で造成工事費の多寡を判断する

 次に土地の凹凸のケースを見てみることにする。
土地が道路よりもやや高く、盛土や擁壁工事の必要性もほとんどなく、ほぼ平坦な土地が開発造成工事という面から見た場合、こういう土地は優良可の゛優゛の土地と云えよう。比べて、土地全体に凹凸が多く、加えて大きな雑木や竹林等がビッシリと植わっているような土地は造成工事費との絡みでいえば、最悪の゛不可゛もしくはかろうじて゛可゛の土地と云える。このような土地は宅地造成工事費の算出もより慎重に行わなければならない。
造成後の完成宅地価格が坪10数万を超えるような地域であれば、このような土地であっても素地価格に値段が付けられないということもないが、造成コストが高く付き過ぎて、その為、素地価格がゼロ以下という土地も造成後の完成宅地価格が極めて安いローカルな地域では現実出てくることもある。
これまで「素地価格」を出すにあたっていくつかのポイントを述べてきた。これらのポイントを常に頭に叩き込んで土地を見ていくと、対象土地の素地価格が適正であるかそうでないか、つまり高すぎるのか妥当なのかの判断がつくものである。
 仲介の不動産業者が曲がりなりにもこれらの基本的視点に立って素地価格を出していれば、購入する側の方も買付の可否について適切な判断がし易いということになる。
 しかし不動産業者の担当営業マンさんもそれこそ゛月とスッポン゛の世界である。見た目は不動産取引について年齢的にもキャリァを積んでいるような営業マンさんに見えても、会社の看板にぶら下がっているだけの雰囲気だけで仕事をしている営業マンさんも多いものである。そういう営業マンさんにはこの拙稿を是非読んで欲しい。各県にある宅建協会なる組織も不動産の取引きに関する研修は頻繁に行ってはいるが、査定や鑑定などの研修は殆ど行われていないといってもいい。査定や鑑定等は不動産鑑定士の分野に属する範疇ともいっていいが、個別の狭小な宅地の価格査定などは、大きな山林や農地の素地価格の算出査定に比べると難易度から云って易しいと考えていい。
 であるから「できる営業マンさん」とそうでない営業マンさんとの間には能力的に大きな乖離が生じていると云ってもいい。毎年、順調な成績を残して多くの宅地開発用の土地を適正価格で紹介している営業マンさんもいれば゛、片や「素地価格」の何たるかもはっきりわからずにに適当なフィーリングで土地を紹介している営業マンもいる。
 そういう営業マンや不動産仲介業者に当たると、土地の素地価格の根拠たるものも、まさにフィーリングそのもので、隣の土地がいくらで売れたからとか、この周辺の土地の価格は大体こんなものであるとか、さらには売主である地主が云っている価格だからとかの理由を述べるものである。基本、売り買い自由の資本主義社会の中での取引であるから、こういうブローカー的な営業マンの仲介のやり方を全面否定はできないが、土地の鑑定とまではいかなくとももう少し理に敵った仕事(営業)をしてもらいたいものである。このような方には是非、このホームページを見て戴きたいものである。
 別紙で述べた「売れる土地」と「売れない土地」の中で詳しく書いているように、住宅一軒を建てるほどの60~70坪の土地の価格決めはそれほど難しくはない(それでもHPで書いているように多くの比較要因があるので参照してみて下さい)。しかし、1000坪単位の開発適地と云われる、所謂゛素地価格゛としての農地や山林の売価格を決めるには、不動産鑑定士さん程の深い知識は必要ないものの、やはり上に述べたような基本的な知識に基づいた査定作業を行うことなしには適正な素地価格の出し方はできないものと思える。
 不動産の営業マンさんも不動産のプロ(取引を進めていく際の基本的な知識を持ったプロであることは当然のこととして、また地主が売りに出そうとしている土地の価格(素地価格)を適正に決定してやる為の゛査定゛のプロでもなければならない)という看板を背負って、大事で高額な財産取引を行っていくのであれば、不動産の査定の分野においてもたゆまぬ努力と研鑽が必要とされるところである。
最後になりますが、以下の式を以て今回のタイトルを締めくくりたいと思います。資本制の社会においては土地や建物である不動産も「資本の論理」から自由であることはできません。単体の規模の小さい土地であればいざ知らず、規模の大きい山林や農地等の「素地」はドップリと「資本の論理」の中に組み込まれてしまいます。原材料としての素地(山林や農地等)に金融資本(お金)が投下されて造成工事が行われ、そして造成工事には多くの労働力が投下されてより付加価値の高い完成された造成宅地(商品又は製品)が出来上がり最後は素地価格の何倍もの価格で取引されることになります。

(参考)
拡大再生産を伴う資本の一般的形式 G-W-G’
(G貨幣-W商品(Pm生産手段+A労働力)…P生産過程…W’製品-G’増殖した貨幣)